第28話 冥土に瀕する

「エンツァイ、来やがれ。正直俺は自分から攻めることが苦手でね」

俺は表情を崩さないように言った。これは本当だ。

「…ほう、自ら防衛を選択するのか。俺からの攻撃を全て耐え切れる自信があると」

エンツァイは不敵な笑みを浮かべ言った。耐え切れる自信はない。あいにく俺はあんたらと違って痛みで止まるんでね、一発が致命傷なんだよ。

「自信なくても防衛しないといけない時はあるだろう?」

「確かにそうかもな…」

エンツァイは腰からナイフを引き抜いた。俺の目はそれに釘付けになってしまった。刃渡12センチくらいのダガーナイフ。刺すことを得意した戦闘用のナイフだ。あれがまともに自分に突き刺さったら…考えなくてもわかることだろう。

「さて、発言は撤回できないからな、やろうか」

エンツァイはダガーナイフを軽く振った。感覚を確かめるように。俺はその所作を見ていた。見たくもなかったが、見ないといけなかった。恐怖、それ以外何も当てはまらなかった。死という漠然とした恐怖を目の当たりにした時、固まって動かなくなる者と、体が勝手に動く者に別れる。どうやら俺は前者らしいな。だんだんと迫ってくるエンツァイを見つめることしかできない。今まで多くの銃撃戦を掻い潜ってきたと思ったが、一対一で死と戦ったことはなかったのだ。これは…俺が今まで人を殺してきた報いかもな。ナイフが振り下ろされる瞬間、クレイと目が合った…。


⚪︎ ⚪︎ ⚪︎


クソ…痛えし、今動いたら出血過多で死ぬ確率が上がるだろうが、知らねえ!

「ああああああああああ!!!!」

ははは!エンツァイの頭に拳がクリーンヒットだ!よろめいててざまぁみやがれ!

「おいクソジジイ…俺の仲間に何してんだ!」

あー、喋るたびに撃たれたとこが激しく痛む。目の前が歪んできやがったし、これ長くねぇなぁ…。

「…まだそんな力があったとはな、少し驚いたさ」

驚かれるほどのことでもねぇよ…つーか会話してる暇ねえんだわ。

「ああ!?驚いたならその勢いでそのまま死ね!」

左手に力込めてナイフ振らないといけなくなってきたな。ラストチャンスこれだな。一発貰ってその後の隙を突く。がむしゃらに振ったナイフが当たることはないのは知ってるよ…さて、耐えろよ俺!

「死に急ぐな!」

「うッ…ぐぅ…」

死んでねぇな…ぁ。足に…力が入らない。この際力入んなくていいわ!全神経左手に集中しろ…。

「…俺死んでねええええええええええ!!!!」

「なッ…」

完全に刺した…はずだ。もう左手の感覚がなくなってきた。そして足が崩れた。膝が痛いな…ぁ…


⚫︎ ⚫︎ ⚫︎


「外にいるのは誰だ、答えろ」

「オカリナ、俺だ。貝殻だ、今開けるから待っててくれ!」

カンヌキを開け、扉を思い切り引っ張って開く。すぐに見知った顔が目に飛び込んできた。

「貝殻、状況は?」

「エンツァイと歯車が交戦中。暴風がやられた」

「チッ…まずいな」

一気に顔が険しくなるカール。オーロンがカールに銃を投げ渡す。片手でキャッチし右手に収めるカール。流石の芸当だ。オーロンが小さく拍手していた。

「急ぐぞ!道案内頼む」

「了解、こっちだ!」

そうして俺たちは廊下を走り始めた。

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