第23話 吹き崩れる風
ヒュンッという風を切る音とともにカールが横薙ぎにナイフを振るが、空を切る。
「ハハッ!おせぇよ!」
身をかがめてかわしたクレイは、ナイフを振ったことでできたカールの右下の空間に身を滑り込ませる。
「脇腹もーらいっ!」
クレイのナイフがカールの右脇腹に向かう。が、カールは簡単に弾き返し、距離を取る。クレイは止まらなかった。距離は一瞬で詰められ、カールの首元にナイフが飛ぶ。カールは瞬きもせずナイフを首元ギリギリで止める。
「どう?あと少し力入れたらお前死ぬよ?」
「そうか、じゃあ力が入らないようにすればいいな」
ドフ、みたいな鈍くて布越しみたいな音が響く。カールの膝がクレイの鳩尾にモロに入ったのだ。
「う…モロに入った…クソ」
クレイが腹をさすりながらカールを睨みつける。今度はカールのターンだ。カールの右ストレートがクレイの顔面を強打する。よろめいて雪の中に倒れるクレイ。カールはちらっと見た後、
「…もうちょいやると思ってたんだがな」
と言い、背を向けた。背を向けてはダメだ、と叫ぼうとしたが、遅かった。起き上がったクレイがカールに飛び蹴りをくらわせた。カールの左手からナイフが離れた。正面から倒れるカールに対して、クレイは顔に蹴りを入れた。
「あのくらいで!俺が!この俺が!くたばると思ってんのか!」
ちょっとまずいかもな、止めないと。俺はクレイの肩に手を置いて言った。
「おい、暴風、そろそろや…」
ギュンッという音とともにクレイのナイフが俺の頬を切り裂く。
「あ?邪魔、殺すぞ」
クレイがナイフの先端が俺の喉元に向けてきた。
「やめろ、思い直せ。後で絶対に後悔する」
「しないな。こいつを今ここで殺せば俺が一番強くなれる」
「お前どうかしてるよ、頭を冷やせ」
と言ったあたりでクレイの後ろからゴンッと音が鳴り、クレイが倒れる。俺の喉元を向いたナイフがあるんだが。少しは気をつけてくれ。
「…とりあえずはこれでいいな」
音の主はオーロンだった。どうやらクレイの頭を銃床で殴ったらしい。
「帰還がかなりだるくなったぞ。どうする包帯」
「こいつら背負っていくしかないだろ」
「…総量60kg超える計算にならないか?」
「うーん」
どうしたものかと悩んでいると、遠くに何かが見えた。
「あれは…味方じゃないか?」
双眼鏡をのぞいてオーロンが言う。
「俺たちを探しにきたのか?なら位置を知らせないと!」
「銃を撃て!」
オーロンが空に向けて発報した。俺も発報する。味方はこちらに気が付いたようだ。ああ、助かった。
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