第22話 暴走
「死ねこのクソ!」
距離は100メートル近く離れてるはずだが、クレイの声がはっきりと聞こえる。叫んでること幼稚すぎるだろ。遠くから見えたクレイはなぜか銃で殴りかかっていた。…マジで何してんの?突然の単騎での襲撃に敵は対応が遅れるだろうと思っていたが、クレイの攻撃を軽くかわし、反撃に転じているのが見えた。人数は大体10人弱か、普通に不利だな。
「チッ、急ぐぞ!」
カールが走る速度を上げる。速っ。雪の上で到底出せない速度で走り去っていくカール。追いつくのにすら必死な俺とオーロン。
「オカリナ!ちょっとくらい身体能力分けてくれない!?」
「嫌だ!」
カールは即答を返しながらさらに速度を上げた。
「はぁ…やっと追いついたぞ」
なんとかしてクレイと敵軍がいる場所に追いついた。が、全て終わった後だった。
「ははッ!あはははは!お前らおせぇぞ!」
クレイが7人の隊員全てをノックアウトし、一人一人に蹴りを入れている状況だった。
「やめろ、戦闘不能になった兵士を痛めつけるのは国際法に反する」
カールが止めようとするとクレイは躊躇なくカールに刃を向ける。
「法も秩序もクソもねぇよ!一年前のこの時期にリンチされて2ヶ月ダウンしたドアホはどこの誰だったかな!?」
クレイが完全に煽り口調で叫ぶので、カールの表情が固くなる。俺も思い出した。一年前のこの時期、カールが敵軍にリンチを受け、ボロボロになった時のことを。
「クソッ、夜に急襲してくるとか頭沸いてんのか敵軍は!今丸腰だし…」
バンッ
「足がッ…!」
「おい!クソガキもいるぞ!相手は人手不足でガキも兵士にしないといけないのか!」
「傑作だ!あははは!」
(二十代前半くらいの若そうな奴らだ。傑作でもなんでもねぇよ。お前らと万全の状態でやり合ったら俺の圧勝だってのに)
「おーい!ガキ?大将の位置とかわかるか?」
「…お前らに話すことはない」
「へぇ!大層ご立派な教育を受けたな!」
ガンッ
「痛ッ…お前らガキ相手に何してんの?」
「あ?口の利き方考えろ?」
ドスッ
「ウグッ…ゲホッ…」
「あー、心配すんなよ?腹軽く刺しただけだからよ」
「つってもこのままほっとけば30分もたたないうちに死ぬけどな」
「それでさ、大将の位置知らない?知らない?知らないかって聞いてるんだけど!」
(暴力)
「反応しなくなってきたよ?」
「うーん、聞くだけ無駄だったかな?」
(ヤバい…呼吸がしづらい…身体中が痛い…)
「そろそろ別のとこ行くか!この階もほとんど制圧しただろうし」
「じゃあな!お別れだ坊や!現世にさよならいいな!」
「させねぇよ!」
(ドアが蹴破られる音、戦闘する音が聞こえる…)
意識はここで途切れる。
「なぁオカリナ!あの時俺が助けに入らなかったらお前はここにいねぇんだよ!」
「…助けなんていらなかったさ、余計なお節介だった」
「あ?足撃たれて腹刺されてボコボコに殴られたお前に何ができたんだよ、言ってみろ」
「反撃くらいできるわ!コンクリでもなんでも引っ掴んであいつらの頭殴れたぜ?」
「嘘つくな!」
「ついてねぇよ」
クレイとカールの口喧嘩が加速する。普段こうゆう時はランディが止めてるんだが、いなかった。
「お前そろそろ黙れ、うざい」
「あ?先に吹っかけたのお前だろ?」
クレイが遂にナイフを振ってしまった。カールの目の色が変わる。
「…後悔するなよ」
「するわけないじゃん、数秒で終わらせてやるよ」
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