第21話 暴風と雪の後
「…不味い」
クレイが愚痴を言いながら黙々と食べ進める。普段とは全く違う暗い雰囲気の夕食を済ませた後、銃を持って寝る。銃はめちゃくちゃに重かった。が、敵襲を考えると、銃が近くにないのはかなり怖い事だった。寝心地と心配の勝負はいつだって心配が勝つのだ。暴風雪がごうごうと鳴く中、眠りに落ちた。
翌朝。テントの中は流石の断熱力であまり寒くなかった(クレイは生きた心地しなかっただろうが)。
「外の様子は?」
をカールが聞くと同時にオーロンがファスナーを開く。
テント内に雪が雪崩れ込んでくる。クレイが慌てて足を避ける。
「快晴、でも雪がすごい積もってるな」
オーロンの報告にカールの計画が決定した。
「今日中に帰還を目指そう。天気はいつ変わるかわからない。それにテントもだ、敵に見つかればまずいことになる」
「ちょっと待った、朝食は?」
クレイが口を挟むので、カールはクレイにレーションを投げつけた。片手で掴み口にかっ込むクレイ。カールは俺たちにも投げつけ、そして自分も食べ始めた。
「確かに朝食は大事だ、食え。食ったらすぐ動くけどな」
「手が冷たーい、杭を刺した昨日の俺に杭刺してやる…」
「昨日の自分殺したらお前も死ぬぞ」
クレイが杭を回収しながらブツブツ言うのがうるさかったようで、カールが反論していた。
「わかってるって…」
クレイがかなりイライラしながら吐き捨てた。そして近くにいた俺には、その後小さく言った言葉がちゃんと聞こえた。
「うるっせえな愚痴だよ愚痴、いちいち反応してくんな…」
これがカールに聞こえていたら、目の前で殴り合いが始まっただろう。聞こえていなくてよかった。
テントの解体は順調に進み、すぐ出発することになった。カールを先頭に(ちなみに順番はカール、オーロン、俺、クレイだった)雪をかき分けながら進む。膝くらいまで積もっていたので、足を取られないように気をつける必要があった。
「…これも結構理不尽だよな」
クレイがイライラした口調で話しかけてくる。
「これさ、圧倒的に高身長有利だよな。神はやっぱ二物も三物も与えるよな」
クレイはチラチラとカールを見ながら半ば強制的に同意を求めてくる。事実として、カールとクレイの身長は頭一つ分くらいの差があった。顔は両者ともかなりのイケメンだと思うんだけどな、一割くらい俺にも分けてくれないかな。さらに、クレイはカールのことをライバルとして見ているのは周知の事実だった。
「はぁ…帰るだけじゃ接敵も無いよな」
クレイがブツブツうるさい。これはこいつの昔からの癖だ。イライラすると口数が増える。不意にカールが足を止めた。そして言った。
「なんで帰る時にも会うんだよ…」
横から顔を出して見ると、丘を降って行った先に敵軍が見えた。幸いまだ見つかってないようだったが。
「さて、戦闘は避けたいんだけどな…」
カールはアサルトの準備をしていた。オーロンがカールを制して言う。
「様子を見よう」
しかし、その言葉はクレイに届かなかったようだ。
「あっ待てっ…」
俺が反応する間もなく、クレイは転げ落ちるように丘を降って行った。オーロンが呆れて言った。
「あれまた怪我するよ?」
「…仕方ない、そもそもこの行動自体が命令違反みたいなもんだしな。援護行くぞ!」
カールが笑って言う。お前戦いたいだけだろ。そして俺たちも丘を降って行った。
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