第16話 軋む歯車

男の顔面の形が変わってきたところで、クレイは拳を止めた。

「もういいや、こいつ死んでる」

と言いながらも銃の照準を男の頭に合わせているクレイ。バンッ、とそのまま頭を撃ち抜き、そのまま倒れてしまった。血まみれで動くからだよ、まったく。

「おい、大丈夫か?」

「アドレナリン切れた、体の節々痛い。医務室」

カタコトで喋るクレイをオーロンが介抱して医務室に連れて行った。ヘルテル代理司令は護衛に肩を借りていた。

「おい?ダレク、俺たちも医務室行くぞ、多少なりとも血は出てるだろ」

カールが後ろから話しかけてきたのでビクッとしてしまった。


医務室で手当を受けた後、病室に直行した。幸いなところヘルテル代理司令は大事には至らなかったし、クレイを含め、他の仲間たちも多少出血しただけで、大きな怪我はなかった。問題はランディだ。手術は始まっていたため、こればかりは願うしかできなかった。代理司令はタランチュラメンバーに、手術が終わるまでここで待ってもいいと言ってくれたが、俺は断り部屋に戻った。自己嫌悪に吐きそうだったからだ。


誰もいない部屋に戻り、電気もつけず(消灯時間をとっくにすぎていたから当然だが)自分のベッドの骨組みの中から、ある写真を引っ張り出した。少し太っていて、無精髭を生やし、サングラスをかけた男と、きちっとしたシャツを着こなしていて、いかにも真面目そうな学生と、ぎこちなくスーツをきた7歳くらいの男の子が写っていて、全員笑っていた。そう、この男の子がこのダレク本人なのだ。今13歳だから六年前の写真だ。学生は俺の兄、世界で一番嫌いな男だ。そして髭を生やした男は俺の父(母親は俺を産んだ時に死んだ)。この幸せそうな家族写真は二年後に崩壊する。9歳の時だった。父さんが、空襲に巻き込まれて焼け死んだ。土地の相続も何もかも、11歳の兄一人が背負うには重すぎた。兄は全て手放し、俺を連れて生きるために必死だった。虫を食べ、時に他人から食べ物を盗み、逃げて生き延びた。俺の記憶にあるのは虫が不味くて吐いていたこと。そして、ある日、俺は売られた。軍隊では兵士不足で、少年まで徴兵された。学生は徴兵されなかったから兄はそうして逃れたのだろう。


「おにーちゃんは?おにーちゃんはいつくるの?」

「黙ってな坊や。可哀想にな、お前は売られたんだよ。ここにお前の兄貴はこないさ」

「嘘だ!おにーちゃんは約束破るような人じゃない!」

「騙されたんだよ、認めな。でなきゃ今こんなふうになってない」

…あのクソ野郎は俺のことをどうして売ったのか、あの時からずっと考えているが、情報が少なすぎる。ただ、一つ揺るがないのは、あいつはこの手で殺すってことだけだ。

「…感情のままに惨殺をするのは理性のない獣だけだ。あの時の俺はまさしく…それに当てはまった」

あの男を蹴った時、俺が感じたものは快楽だった。あの男と俺の兄は同じ側面を持っているように感じた。自己中心的で、自分の利益しか見えていない。俺にはそれが獣のように見えて仕方なかった。

「…この手も血まみれなのは変わらないけど」

ランディが生きてくれることを願おう。

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