第15話 鯖

「どうせお前なんてさっきの坊やと同じようにすぐ死ぬんだから、向かってきても無駄だと思うけどなぁ…?」

「無駄かどうか決めるのは俺だ、黙れ」

「生意気言うんじゃねぇよ!」

男は叫びながら二発銃弾を放つ。が、クレイには当たらなかった。

「さあ、小細工なしの真っ向勝負でやろうじゃないか。もし俺にすら勝てないと思ってるなら小細工使っていいけど。どうする?」

クレイが煽り口調でつらつらと喋る。俺は直感でわかっていた。このクレイは危険だ、何してくるかわからない。一番敵に回したくない存在だと。しかしあの男はオーラやらなんやらがわからないのだろう。

「いいぜ、クソガキなんかに負けるほど俺は弱くない」

男は醜悪な笑みを浮かべて答えた。完全にクレイを見下しているのだろう、目の前には血まみれの子供一人、しかも丸腰だ。普通なら容易く殺せる相手だろう。ただし、今回は話が違う。クレイという人物がどれだけイカれているかわかるだろう。

「こいよ坊や。数秒で終わら…」

ガンッ

男が反応する間も無く、クレイが距離を詰めて顔面に拳を叩き込んだ。鼻血が噴き出る男、相当面食らったようだ。

「この…うぇッ」

そして容赦なく第二撃が男を襲う。今度は腹に膝蹴りを入れたようだ。クレイは止まらなかった。腹を抑えて倒れ込む男の顔面に爪先から蹴りを入れる。コンバットブーツの靴底には鉄板が仕込まれてるので痛いだろう。

「ちょ…待って、待て!」

男は必死に抵抗するが無駄だ、クレイは蹴り続けるだろう。クレイが冷徹な口調で言う。

「やめて欲しいなら銃よこせよ、早く!」

「ひぇ…ハイ…」

男は銃を手から離した。それが最期だった。クレイは蹴るのを一瞬やめ、銃を拾い上げた。そして一言。

「サンキュー」

クレイは男の両手足を銃で撃ち抜いてしまった。悶える男。

「ああああ!!痛い痛い痛い痛いいいい!!!」

「黙れ、耳障り」

クレイは迷わず右腕にもう一発撃ち込んだ。

「さーて、さっきお前が言っていた状況が再現できるな。確か顔面の形変わるまで殴るんだっけ?」

と言いつつ、クレイはもうすでに男の顔面に拳を入れていた。男の頭から血がダラダラと垂れてくる。

「おい!どうすんのか!聞いてんだよ!答えろ!」

殴りながら男に向かって叫ぶクレイ。男は答えなかった、いや、答えられなかったのほうが正しいか。

「おい!黙ってないで!なんか!言えや!このクソ!」

男は最後の希望として、俺たちの方に視線を送ってきた。だから俺はそれに答えてやった。

「クレイ、俺にも一発くらい入れさせろ。相当腹たっててさぁ…」

クレイはにっこりと笑った。俺は迷いなく男の頭を全力で蹴った。蹴る瞬間、男の表情が見えた。絶望という字がふさわしい死んだような顔だった。身から出た錆だ。

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