第12話 窮地
「つまり、君たちの部屋に「ルタードの口」の幹部が潜んでいて、一悶着あった後に飛び降りて逃走したと、そう言いたいんだな?」
「そうですヘルテル代理司令」
ランディが説明をしている間、ずっとクレイが頭をさすっていた。
「とにかく、このあと兵士たちを集めて調査の報告と今のことを発表しよう。それから兵士個々に聞き取りも」
ヘルテル代理司令がテキパキも指示を飛ばす。やはり頼もしい人だ。
「あー君たち、報告ご苦労。自室へ戻ってよい」
代理司令がこちらを向いて告げた。
「わかりました。失礼します」
ランディのあとを追って部屋を出ていくタランチュラメンバー。全員が部屋を出て部屋に向かう時、クレイがひっそりと別の廊下へと進んで行くのが見えた。最後尾だから他のやつらは気づいていないようだ。
「おい、何してる」
「…一個心当たりあるんだよね」
クレイが真剣な表情で進もうとした廊下の先を指差した。その方向には倉庫やら物置があったはずだ。
「あっちの方向は倉庫やらなんやらあるだろ?全然使ってないのも…」
俺がクレイを遮って言った。
「あのな、倉庫の中に身を隠すなんてそんなベタなことやると思うか?」
「いや、倉庫は倉庫でも最近錠前が錆かなんかで使えなくなったって倉庫あるだろ。あれは2日前でタウナーの失踪と同じ日で、尚且つあの日は北側の見張りが数分なかった日だ。たったの数分だが、侵入するには十分だろう」
「侵入?どうやってだよ。柵は有刺鉄線張られてる上に人が越えられる高さじゃないだろう」
「あーそれは…」
言葉が詰まるクレイ。根拠ないのによくそこまで言えるな。
「まあ、例の倉庫に着いちゃったし、ここ開けようぜ」
気がつくと例の倉庫の前に来ていた。
「…これが狙いか?」
「そうとも言えるし、偶然とも言えるな」
クレイが至極真面目な表情で平然と言い放つ。要するに偶然だ、クソが。
「さぁ〜て、どーやってここ開けようかな?」
お前ノープランかよ…。
「クレイ、スナイパーライフルあるけど貸すか?」
なんで平然と全員ついてきてんだよ。あとそのスナイパーライフルどっから取り出した。
「やめとけ、中に爆発物とかあったら誘爆して大変なことになるよ」
ランディ、お前がまともで助かったよ。
「本当にどうやってこここじ開ける?」
カールがそう言った瞬間に目の前の扉が開いた。中からさっきのヒョロヒョロ男が出てくる。男は俺たちを見て言った。
「やめてくれよ、こじ開けないで、ほら、ちゃんと開くからさぁ…」
本当に情けない雰囲気だ。が、今回は片手に拳銃を握っていたので全員に緊張が走る。
「銃捨てろ、さもないと撃つぞ」
カールが冷静に男に銃を向ける。今回の反応は違った。
「そっくりそのまま返そうか、そっちこそ銃を捨てな」
男はこちらに銃を向け返し。にこやかとは言えない狡猾そうに笑い、倉庫に入っていった。
「あっ!待てよクソヒョロ!頭の借り返したくてさぁ!」
クレイが最後尾から飛び出し倉庫に突っ込んでいく。戦闘の時だけ元気になるなよ…。クレイに続いて倉庫に入っていくタランチュラメンバー。俺は最後尾だった。
「暗いな…電気つけろ」
俺が電気のスイッチを入れる。が、男の姿が見えない。倉庫といってもコンテナのような感じで物はそれほど入っていなかった。つまり身を隠せるような場所は少なかった。
「あの野郎どこ行った?」
クレイが木箱の山を蹴飛ばしながら言う。が、その答えが帰ってきた。
「後ろだよ!哀れな間抜けども!」
全員が振り返ると、そこにはヒョロヒョロ男が立っていた。しかも倉庫の外だ。
「クソッ待て!」
全員が扉に向かって全速力で走るが、抵抗虚しく扉はバタンと閉められた。
「開けろこのクソ!」
クレイが扉を破壊しそうな勢いで扉を叩くが、鈍い金属音が響くだけだった。
「無駄だよ、死にたくなかったら騒ぐのをやめな!」
扉越しに男の声が聞こえる。構わず暴言を吐き続けるクレイ。
「うるっせえ開けやがれクソ野郎!」
「黙りな!あの司令官と同じ結末になりたくなかったらな!倉庫の中に木箱あるだろ!」
男がそう言うのでカールが木箱を開ける。覗き込んだ俺がバカだった。
「おぇっ…」
木箱の中にはヒトの手足が入っていた。間違いなくタウナーのものだろう。他にも何個か木箱があるが、まさか…。
「解体するの丸一日かかったし疲れたぜ、だからことが終わるまでそこで黙ってろクソガキども」
扉の外から淡々とした声が聞こえる。
「あぁ、そうそう、倉庫には爆弾が仕掛けられてる。やろうと思えばいつでもバンだ」
男はそう言い去っていったのだろう。足音が遠のいていく。
「…」
メンバー全員が沈黙する。さて、窮地に立っちまったな。
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