第11話 誰?

その時俺の口から出た言葉は悲鳴でも、仲間への警告でもなく、

「あんた、誰?」

だった。

「あ?何言ってんだダレク?」

クレイが一瞬考えたあと、全て把握したようだ。

「とりあえずそこから離れろ、そしてカール、お前のベッドに銃何丁かあるだろ、出せ」

「どうゆうことだ?説明してくれ」

カールがクレイに聞くと、クレイはこちらを向いて端的に言った。

「ベッドの下になんかいるってことだろ?敵にせよ味方にせよ銃あった方がいいだろ」

「ダレク、今のは本当か?」

そうだよ、クレイ本当によく頭回るな。

「そうだよ、だから早く銃を」

「物騒だなぁ〜、俺に敵意はないって〜」

俺のベッドの下から這い出てくる謎の男。高い鉤鼻に胡散臭い髭を生やした、いかにもずる賢そうな見た目だ。

「待ってくれよ、ほらさ、銃下ろして、ね?」

悪いが銃を下ろす気になれない。

「…銃下ろして欲しかったらその手に持ってるナイフ捨てろよ」

オーロンがぶっきらぼうに言った。その男はにこやかに(本人はそうしてるつもりだろうが、他人から見ると悪役が悪巧みをしているような表情にしか見えない)答えた。

「うん、それは確かにそうかもねぇ」

その男はナイフを床に置いた。

「…なんで銃を下ろさないんだい?」

また例のにこやかフェイスで聞いてくる。が、表情硬いよー?すんごく悪そうな笑顔だ。正直に言うとこいつのことを一秒でも早く蜂の巣にしたいところなんだが。

「あんたの所属と諸々の個人情報とベッドの下にいた理由話せ、場合によっては半殺しで許してやる」

「本当に物騒だねぇ…西側の奴らって戦闘狂しかいないの?」

悪人フェイスはヨレヨレと話すのでクレイが一喝。

「はっきり要点まとめて喋りやがれこのドアホゴミカスあんぽんたんクソヒョロ…」

「ストップストーップクレイ言い過ぎ、これ以上は自主規制入る」

ランディが止める。自主規制って何?

「…そんな言わなくてもいいじゃない。ちょっと傷つくよ…俺そんなひょろひょろしてる?」

そこ気にしてんのかよ。ちなみに痩せ型といえばそうだろうな。本当にどうでもいいが。カールが冷静に一言。

「早く言え」

「えぇ…あぁ…ああ、言うとも。俺の名前は、ヨダイ・メギ・ハレ・コ。おかしな名前だろう?」

クレイが鋭く切り返す。

「偽名を使うな、俺たちは騙せない」

ヒョロヒョロはまだにこやかな表情で答える。

「偽名じゃないよ〜。ひどいなぁ…なんでそんなに信じてくれないの?」

「思い出したのさ、お前、ルタードの幹部の一人だな?」

一瞬でそいつの表情が凍る。

「…なんでバレるかなぁ…」

「ただ適当に言っただけ、お前が自分から吐いただけだ」

「まあいい…あとで殺すか今殺すかの違いだ!!」

そいつはナイフを拾い上げると、いきなり俺たちの方向へ投げつけてくる。もちろん全員かわすが、飛んでいくナイフは窓ガラスを割った。

「ハッ、アホだな!自ら丸腰になってくれるとは!」

クレイが純粋な喜びを剥き出しにしながら一歩一歩距離を詰めていく。手には銃が握られていた。

「まあまあ、実は俺お前らと戦う気ないんだよな」

「あっそ、俺はあんだよ!」

クレイは止まる気がないようだ。

「待って!本当に止まって、俺本当に君たちとは戦いたくないんだって!信じてくれよ…」

こんなヘニャヘニャのやつがルタードの幹部なのか?弱いフリしておいて不意をつかれたりしたら洒落にならない。

「あのさ、今さっき「あとで殺すか今殺すかの違いだ!!」とか言ったやつのことを簡単に信用するとでも思ってんのか?おめでたい野郎だな」

クレイが話しながらさらに距離を詰める。

「本当に止まってくれよ、頼むからさぁ…」

「じゃあさっき聞いた諸々の質問全部答えろ」

クレイがキッパリ言い返して近づいていく。

「はあ…近寄るな!死にてえのか!」

「はは、本性表したな」

クレイが笑って飛び出す。

「あー、やっぱやーめた!」

男は大きく横に避けてクレイはベッドの柱に激突した。

「いってぇえええ!てめぇやっぱ許さない!腸ズタズタに引き裂いてやる!」

「本当に物騒だなぁ…。まあいいや、バイバイ!」

そう言うとヒョロヒョロ男は俺たちの間をすり抜けて割れた窓から飛び降りていった。ここは三階、あいつ骨折してないかな…。つーかルタードでは窓から飛び降りるのがブームなのか?

「あの野郎身のこなしは達者だな。見失っちまった」

いつのまにかスナイパーライフルを取り出したオーロンが苦笑いしながら言った。

「…なんでそれ持ってんの?」

「もちろんベッドの下の鉄パイプの隙間さ」

お前らなんでそんなに武器しまってるんだよ、俺も多少はしまってるが。

「お前らそんなことより早く報告行くぞ、まだこの基地内にルタードの構成員がいる可能性もある」

「なあマジで頭痛いんだが…」

カールを無視してクレイがベッドに寝転ぶ。そんなクレイをカールがフルスイング。

「あーっ!!いってぇえええ!!そこぶつけたところだ!!あああああああああ!!」

悶絶するクレイを横目にドアを蹴破り、部屋を出るカール。ランディとオーロンが続く。

「クレイ、行くぞ。手くらいは貸すぜ」

「手貸してもどうもならねぇよ…」

「ほらほら行くぞー」

そう言って俺はクレイの頭を叩いた。

「お前ら本当にぶっ殺してやる…いてぇ…」

クレイが涙目で呟きながら最後尾についていった。

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