第7話 音が掠れる

結局あとから起きてきたカールにも心配されて、精神の休養は大事だぞ、と注意される始末だった。朝食の席では普段一番食いしん坊なランディが自分のベーコンを一個渡してきたし、オーロンが自分の分のジャムを俺のパンに塗ってきた。本当に過保護すぎるよ。でも、俺には気持ちが痛いほどわかった。味わった絶望は違えど、同じような境遇の奴らが集まっているのがこの「タランチュラ」なのだから。


その日の深夜、他の奴らが珍しく早く寝た頃、俺もそろそろ寝るかな…と目を閉じた瞬間に、建物全体が揺れた。そして目が覚めた瞬間に下から爆発音がした。クッソ、このタイミングで敵襲かよ!

「ふわぁぁ…なに?誰か手榴弾のピンでも抜いた?」

寝ぼけたランディが斜め前のベッドからよろよろと起きてくる。

「アホ。起きろ、敵襲だ!」

もうすでに戦闘服に着替えたカールが鋭く言い放つ。あぁ…とわかったのかわかってないのかよくわからない返事をし、よろよろと服を着替えるランディ。俺は戦闘服を着ながら同時に、拳銃をベッド下の鉄パイプの隙間から引っ張り出す。

「…なんで持ってんの?」

オーロンが聞いてくる。すかさずこう答えてしまった。

「ここの検閲甘いんだよ。これも知らなかったd」

バシッ(カールがダレクを殴る音)

「ふざけてる場合か…」

そう言い、カールはベッド下の鉄パイプの隙間からサブマシンガンを取り出した。しかも2丁。


「扉を開けた瞬間敵兵士とエンカウントなんて可能性もあるからな。気、抜くなよ」

目覚めたランディがしっかりとした口調で(ただし、かなり小さな声で)言い放つ。

「了解、貝殻」

「準備はいいな?3、2、1」

全員が銃を構え廊下に飛び出す。が、敵兵士はいなかった。ランディが無言で階段の方向を指差す。全員がそれに従い、銃を構えて階段を降りて行った。階段を降りた先には目を背けたくなる光景が広がっていた。

「うわぁ…」

廊下の端から端まで血の海だった。そこらじゅうに両軍の兵士が倒れている。地獄みたいな光景だった。歩くたびに血のベタベタした音が聞こえる。「うぅ…」と後ろでランディがうめいていた。当たり前だ、俺ですら吐きそうなのに。そんな中余裕そうな表情で先陣を切るカールには、頼もしさよりも狂気を感じてしまった。耳が痛くなるようなけたたましい銃声はまだ鳴り止まない。こんなところで足を止めてる暇はない。

「おい、こいつ息があるぞ!」

先陣を切っていたカールが生きている兵士を見つけたようだ。タランチュラメンバーが駆け寄る。

「おい、敵の数は?どこへ向かった?」

その兵士は腹を深く刺されていて、もう助からない状態だった。が、声を振り絞ってこんなことを言った。

「早く…逃げろ…私は…罠だ!」

その兵士はそのまま動かなくなった。それと同時に、後ろから銃声がした。銃弾はカールを撃ち抜いた。

「ぐあッ…!」

オーロンとランディと俺は素早く遮蔽に飛び込んだ。俺はカールを遮蔽の中に引っ張り込んだ。

「チッ…」

オーロンの顔が歪む。俺も相手の姿を確認した時、思わず顔をしかめてしまった。そこには、アンラーン・エンツァイ本人が立っていた。

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