第8話 宿敵
「歯車、貝殻、オカリナの応急措置を」
オーロンがテキパキと指示を出す。
「待て、お前はどうする気だ」
「あのクソ野郎をぶっ飛ばす」
銃の確認を終わらせたオーロンが言う。
「いや…」
「俺があの野郎をぶっ飛ばす。異論は認めない」
ランディを遮ってオーロンが言い放った。わかったよ…と嫌々了承するランディ。俺と同じことを思っていただろう。クレイですら勝てなかった相手にお前が行ってもどうにもならないだろう、と。でも、仲間が傷ついた以上、負けるとわかっていても戦わなければいけない場面はあるのだ。俺はオーロンの背中を押す。
「…生きて帰ってこいよ」
「お前は黙って早くオカリナの止血をしてくれ」
オーロンが冷たく言い放つ。が、この言葉の裏を俺は知っていた。生きて帰れるかはわからないから、助けられる命を早く助けろ、ってことだ。
「エンツァイ、俺とサシでやれ」
「フン、敵に理解される言葉じゃないと思わないのか?まあ、いいだろう。相手がクソガキだからな、このくらいハンデをくれてやらないと」
「ありがとさんッ!!」
エンツァイが条件を飲んだ瞬間にオーロンは間合いまで詰めていた。そのまま右の拳を腹に叩き込む。が、凄まじい身のこなしでエンツァイはかわした。
「サシを挑んだのに不意打ちとは、少し卑怯じゃないかい?」
「知ったことか!最後に立ってたやつが勝ちなんだよ!」
オーロンが吐き捨てるように言いながら、地面に落ちていたコンクリートの塊をエンツァイに投げつける。エンツァイは首を傾けて余裕そうにかわす。次の瞬間、オーロンが急に距離を詰め、エンツァイの鳩尾に拳を叩き込んだ。はずだった。
「ああ、確かに」
オーロンの拳はエンツァイが軽々と止めていた。
「戦場じゃ最後に立ってたやつの勝ちかもな」
エンツァイの左手に握られたナイフがオーロンの腹を刺した。
「ぐぅッ…」
膝から崩れ落ちるオーロン。馬鹿野郎、生きて帰ってこいって言ったじゃないか。
「包帯!クソッ!」
飛び出すランディを抑えようとしたが遅かった。
「感動的だね。戦場では命取りだけどな」
エンツァイの放った銃弾はランディの耳をかすっただけだった。
「貝殻、感情的になるな!ここで突っ込んだら相手の思う壺だぞ!」
ランディには聞こえていなかった。そのまま突っ込んだ。案の定、エンツァイは左に軽くかわし、足を払った。
「あっ…」
ランディが派手に前に倒れる。おいおい今頭から行ったぞ、大丈夫か?
「さて、そろそろケリつけるか」
エンツァイは腰から拳銃を引き抜き、ランディに向けた。その時だった。
バンッ
エンツァイの後ろから銃声が聞こえた。銃弾はエンツァイ当たっていないようだったが。
「てめぇの相手はこの俺だ!来やがれクソゴリラ!」
声に聞き覚えがあった。遮蔽からちらっと覗くと、階段の踊り場にクレイがいた。右手で松葉杖をつき、まだ包帯も取れてない状態だったが。何してんの?
「…また会ったな白髪の少年」
「次会う時に殺すと決めてたけどこんなに早かったとはなクソジジイ!」
クレイが食って掛かる。
「ジジイはひどいんじゃないの?俺まだ30前半なんだけど」
余裕そうに受け答えするエンツァイ。ちなみに30前半にはとても見えない髭面だ。どうでもいいが。
「一体どうする気だい?とても動けそうな状態じゃないように見えるけど」
「ハッ、笑っちまうよ。俺はあの時からパワーアップしたのさ!なんならこの場から動かなくともお前を倒せるさ」
「とてもそうは見えないがな」
エンツァイはこんなホラ吹きの相手をするのは面倒くさい、というようにクレイの左手の銃に銃弾を命中させた。
「あー!病人に発砲した!いーけないんだーいけないんだー先生に言ってy」
「先に撃っておいて何を言ってるんだか」
だるそうにクレイを遮り、クレイに銃を向けるエンツァイ。
「…じゃあ、こいつはどうだい?」
不適な笑みを浮かべ、懐に手を入れるクレイ。取り出したのは手榴弾でも拳銃でもなくナイフでもなく、手を銃みたいなポーズにしただけだった。
「頭おかしくなったか?ガキのおふざけに付き合ってる時間はないんだが」
呆れ返ったエンツァイ。こいつには致命的な弱点があるようだ。
「ふふふふふ、おふざけに見えるか?」
「ああ、そうにしか見えない」
エンツァイが呆れた口調で言う。
「大正解!」
クレイが笑いながら言う。エンツァイは呆れ返った表情だ。クレイが真面目な表情で言う。
「そうそう、いいこと教えてやるよ」
そうそう、いいこと教えてやるよ。
「あんたはなかなか頭が固いな。もうちょい発想豊かにできないか?」
あんたなかなかバカだな。こんな簡単に引っかかるなんて。
「背後に気を配った方がいいと思うよ?」
「その通りだぜバーカ!」
俺はそう叫び、鉄パイプでエンツァイの頭をフルスイングした。鈍い金属音が響く。頭を抑えながらよろけるエンツァイ。さてと、ケリつけるか。
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