第5話 風のみやげ

「拠点に向かって走り始めた時、俺は完全なノープランだった。突っ込んでエンツァイ殺ったらすぐ逃げるだけのつもりだったんだがな、それは無理だった」

「当たり前だろ…普段は頭の回転早いのに、なんでこうゆうときは頭悪いんだろうな」

カールが呆れ顔で呟く。クレイは聞こえないフリをして続ける。

「その場にいた兵士は大体100人くらい。うち半分くらいは「ルタードの口」の奴らだと思う。戦車とかその他諸々もいたし、正直言って突っ込んだことを後悔するレベルだった」

後悔したなら引き返せよ、と言いたくなったが、クレイのプライドもあるだろうし言わないことにした。

「まず、最後尾の戦車の後ろまで森を経由して回った。気配を殺して止まっている戦車に飛び乗り、ハッチを開けた瞬間、砲手と目が合ってね。砲手の方は「は?」って表情してたな。まあすぐ撃ち殺したけどね。銃声で中にいた兵士たちが全員こっちを向いた。けど、意味ないね。全員撃ち殺したよ」

ここまでの話を平然とした表情で語っているクレイだが、内容はとても笑えたもんじゃない。人殺しをその瞬間で大量に犯しているのだ。

「さて、致命的なことに俺は戦車の運転の仕方がわからなかった。しかも敵国式のものなんて見たこともない。でも、一つだけ操作がわかるものがあった。機銃さ」

このあとの展開が読めたのは俺だけではなかったらしい。オーロンもランディもカールも悟った顔だ。

「迷いなく俺は引き金を引いた。それから弾切れになるまで乱射し続けたさ。もちろん兵士たちは大混乱。エンツァイの姿も見えたんだけど、どうやら被弾してなかったみたいでさ。戦車を降りて森に逃げる時に立ち塞がってきたんだよ」

「つまり、エンツァイと一戦交えたと?」

カールが鋭く聞く。

「その通り。だけどあいつは強かった。歴戦の猛者って感じでさ、いつものじゃ勝てない相手だった」

クレイの戦闘スタイルはThe戦闘狂って感じで、ナイフの連打に飛び道具から手榴弾まで、様々な方面からなんでも出てくる、トリッキーなスタイルだ。対応力が高くないと一瞬でクレイのリズムに持っていかれる。

「エンツァイのやつこっちの攻撃を全部見切るわ、カウンターは飛んでくるわ、とにかくめちゃくちゃに強かった」

クレイが腕をさする。

「そんで、これやべぇなってなって、全速力で森の中を逃げたんだけど、2発被弾しちまってな。クソほど痛い腹をアドレナリンでカバーしつつ全力で走ったのよ。それがこのザマさ」

ふふ…と笑うクレイに対してオーロンが聞く。

「足折ったのは何故だ?」

クレイが苦笑いして目をそらす。そしてはにかみながら一言。

「…走り過ぎ」

途端にタランチュラメンバーが爆笑する。カールが腹を抑えてヒイヒイ言うくらい笑い転げていた。このあと医者にしっかり怒られた。

「とにかく、近いうちにまた侵攻してくるだろうな。そん時に指令はどうゆう対応をするのか、見ものだな。そして、エンツァイの奴は俺がこの手で殺す。負けっぱなしは俺の性に合わんのでな」

時計が午後四時を知らせた。訓練に向かわないといけない時刻だが、この見舞いを理由に少しサボろうかな。

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