第4話 暴風は止まない

午後3時くらい。タランチュラメンバーが病室に召集された。さて、クレイとご対面と行こうか。この時、その場にいたのは担当の医師と司令官、そして俺たちだけだった。クレイの処罰が死刑だった時、俺は迷わず司令官と医師を殺して逃げるつもりだった。生まれて初めてできた親友を失いたくはなかったからな。はぁ…。過去のことを思い出すだけで反吐が出そうになる。思い出したくもない記憶だ。


アルコール臭い病室の中を進み(普段騒々しい面々もこの時は静かだった)、クレイのベッドに着いた。

「やあお前ら!しけた面してんなぁ!」

足をギプスで固定し、頭やら腕やらに包帯を巻いて、真っ白な病衣に身を包んでいるが、普段と変わらぬテンションで話しかけてくるクレイ。疲れるよ本当に。

「黙っていたまえ、ウィルソン」

クレイに一瞥すると司令官はこちらを向いた。

「さて、ここに集まってもらった理由はわかるだろう。『タランチュラ』の処分についてだ」

だろうな、と思っているとクレイが司令官に向けて中指を立てているのが見えた。それ見られたら処分じゃ済まないだろうな。

「まず、命令違反を止めなかったとして、ウィルソンを除く君たち四人は謹慎処分だ。つまり、左遷だ。都市の警備に行ってもらう」

この時点でオーロンが拳を固めた。指令はクレイの方に向き直り話を続けた。

「次にウィルソンだが、君は降格とか左遷ではない、処刑だ。命令違反した上に、内容が内容だからな。帰ってきた時に基地に入れてもらえただけマシだと思え」

クレイの表情は笑顔だった。が、目が笑っていなかった。多分だけど、これは処刑に対する恐怖じゃない、指令のことをぶっ殺して逃げようかなって考えてるだろうな。

「…指令、俺無しでこのあと戦えるんですか?」

クレイが不敵な笑みを浮かべながら続ける。

「前任のカスピオス指令からあんたに変わってから、作戦は失敗続き、戦闘は負け続きですよ?兵士たちを適材適所に使えていますか?ねぇ、タウナー指令?」

忘れていた。目の前にいるこの司令官はタウナー。一応最高司令官だ。覚えたくもなかったから忘れていた。

「あんたは全然兵士の意見に耳を貸さない。だから前線で戦っている状況とか、兵士の精神と身体の状態とか、そういったもん全部わかってないだろ?」

タウナーは黙って聞いている。が、わなわなと震え、今にもクレイに噛みつきそうな雰囲気だった(俺は震えているタウナーを体から水を払い落とすブルドッグみたいだと思っていた)。

「最後にもう一度聞くが、俺無し、いや、タランチュラ無しでこのあと戦えるんですか?」

タウナーの顔は怒りで真っ赤だった、全部図星だろうけど。タウナーはぶっきらぼうに言った。

「君たちは上下関係ってものを知らないんだな」

するとクレイがニヤリと笑って言い返した。

「あんたは銃社会ってもんを知らないんだな」

その次の瞬間、その場にいた全員の視線がクレイの右手に釘付けになった。クレイの右手にはどこから取り出したのか、拳銃が握られていた。

「…なぜ」

「ここの検閲甘いんだよ。これも知らなかっただろ?」

クレイが勝ち誇ったように大きくニヤリと表情を作ってみせた。

「…何を要求する?言え…」

完全に敗北したタウナーはぐったりと聞く。

「タランチュラの不祥事を全て無かったことにしろ。じゃないと悲惨な運命になるぞ?」

あぁ…と力なく了承し足早に去っていくタウナー指令。後ろ姿が非常に笑える。写真に残したいくらいだ。

「ふう…危ない。この銃、弾入ってないんだよねw」

クレイがボソッと笑いながら呟く。途端に額に手を当てるタランチュラメンバー。もしバレたらどうするつもりだったんだよ。

「まあ、いいや。これで処分は無しだ。また前線で暴れられる」

ニコニコしながら言うクレイにメンバー全員がもうバカなことはしないでくれ、と思っただろう(カールは違うかもな)。

「そういえば、拠点に突っ込んだあと、何があったんだい?」

ランディが聞く。待ってましたと言わんばかりにクレイが目を輝かせて口を開く。

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