第3話 帰還
「上の命令に背いただけでなく、単騎で拠点に突っ込んだと?ウィルソンもお前らも何をしているんだ…」
頭を抱える司令部を前に、俺はしかめっつらにならないように必死だった。ちなみに、ウィルソンとはクレイの苗字だ。タランチュラメンバーのほうを見てみたが案の定みんな同じように耐えているようだった。
「タランチュラはうちの重要な特殊部隊の一つなのに…。代用の部隊を編成しないと…」
今ここで司令部の頭撃ち抜いて敵に寝返ったら英雄になれるかな、と考えつつ反省しているフリを続けた。
「マジであの司令官三枚おろしにしてやろうかな」
「賛成だ。ついでに炙ろう」
お前らは〆鯖でも作る気か。カールとオーロンが物騒なことを小声で話し合っていた時、ランディがオーロンの頭をぶっ叩いた。
「…いてぇ。何すんだ」
頭をさするオーロンを見下ろしてランディが口を開く。
「お前らはバカか?」
オーロンとカールが雷に打たれたような表情でランディを見つめ返す。
「俺はこの隊の隊長だからなんとなく司令部の気持ちがわかる。あの時クレイを止められるのは俺たちだけだった。そしてそれをやらなかった俺たちは説教されて当然とは言えるだろう」
オーロンとカールは黙ってそれを聞いている。ランディ、お前も時には良いこと言うんだな、見直したぜ。
「それはそうと俺は話し合わずに突っ込んで行ったアイツが悪いと思うから俺も司令部を虐殺する時は呼んでくれ」
はぁ…やっぱりな。お前もだろうと思ったよ。
「とにかく、クレイの救出作戦が行われるかどうか賭けようぜ」
ランディがため息をつきながらもニヤリと笑った。
「行われない方にチョコレート二つ賭けるよ」
オーロンとカールの目が輝いたのが見えた。
その日の午後1時。食堂で満足げにチョコレートにかじりつくランディを、刺すような眼差しで見つめるタランチュラメンバー(クレイを除く)がいた。クレイの救出作戦は行われなかった。なぜなら、クレイが自力で帰ってきたからだ。ただし、とてつもない重傷を負ってな。十二時を過ぎた頃、見張りに当たっていた兵士が北方面からよろよろ歩いてくる人影を発見した。敵軍の偵察かと思い応援を呼んだが、人の姿をはっきり確認すると、応援にきた兵士たちは驚愕し、呆れながら自分の持ち場に戻って行った。血塗れでボロボロのクレイが足を引きずって歩いていたからだ。ほどなくしてラァーク川拠点についたクレイは救護班に抱えられて部屋に連れて行かれた。運が悪いことに連れて行かれる最中にたまたま司令官と会ったらしい。司令官はクレイを見た瞬間、
「死に損ないが!」
と叫び拳を叩き込もうしたので周りの奴らが止めに入ったらしいな。まったくそれを見ることができなかったのはすごく残念だ。
「はぁ…今回は流石に勝てると思ったんだがな。つくづく運だけはいいな…」
「ふふ、きふぃたひとはちあうんあよ」
チョコレートを頬張ったランディがふがふがと答えていた。カールの目が笑っていなかった(もちろんオーロンも俺もだが)
「結局あいつどうなんだろう。拠点に突っ込んで何か成果あったのかな。骨折だけして帰ってきたなら許さないが」
オーロンが呟くと、カールが反応。
「見たところ足は折れてるし銃傷もあるし、血は返り血も含まれてるだろうし、少しは成果をあげたんじゃないか?まあ、なんかの処分はくらうだろうけど」
その処分、ワンチャン死刑じゃないかなぁ。
「なんか発表はあるだろ。少し待てよ」
それもそうか、と独り言のように呟くオーロン。まだチョコレートを頬張るランディ。どこからともなくオカリナを取り出し、小さく音を鳴らすカール。口ではこんなことばっかり言っているが、本当はクレイが死なずに帰ってきたことにとてもほっとしていることを俺は知っていた。
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