第3話 東家の太陽、そして負けイベント
「その……姉さん、この子スズランって言って高校の友達なんだ」
「違うぞ、もっと凄い関係じゃぞ」
「……あらあら、もしかして蒼矢の彼女ってこと?」
テーブルの椅子に座る三人。
何かと適当に説明しようとするがスズランが邪魔をする。
いや、お前……その行動が自分を絞める行動になってる事に気づけよ。
軽く平手でスズランの頭をトンとやると「痛!」と目を細める。
「……お姉さん、コイツと俺はそんな関係じゃない……もう正直に話すよ」
考える事がめんどくなってしまった。
あいにく学校に帰って来てから、飲み物を一滴も飲んでいないせいか、頭がクラクラとする。
姉に全てのことを話す事にした。
「あらあら、ゲームの魔王様ってこと?」
「そうじゃ!! 我こそ魔王スズランじゃ」
「なるほど〜私の名前は東陽葵と言いますよろしくお願いします」
姉さんはスズランにお辞儀をする。
あれ……以外とすんなりと信じた。
「……お姉さん?」
「こんな馬鹿げた話、信じても大丈夫なのか?」
姉は優しく微笑み口を開く。
「だって、蒼矢が言ってる事だから信じてるのよ」
「……自称魔王(笑)だよ? それもゲームの世界から来たんだよ?」
「はい、わかってますよ」
ちなみに言っておこう、姉はこんなにも信じ込みやすい性格ではない。
心霊番組やUFOは存在していないと昔から豪語しているからだ。
……一体どうして?
ふと、魔王を見ると、ちぇと言いたそうな表情を浮かべ、ブドウジュースを飲む。
「そうね、しばらくスズランちゃんが住むとなると、お洋服やら必要になるわね。お姉ちゃん買ってくるから二人とも留守番お願いね」
姉は財布を片手に玄関へ走っていった。
何かどこか嬉しそうな表情を浮かべる姉。
「うむ……あの陽葵と名乗った女性、相当お前のことを信頼しているそうじゃな」
横に座っていたスズランは俺の顔を見つめ、一言放つ。
「家族だからって……ってことかな」
「ふ〜ん……家族か」
そういえばスズランには家族がいるのだろうか。
ゲームでは魔王がなぜ街に攻めることになったのか詳しいバックストーリーの情報は深掘りはしなかったからな。機会がある時に聞いてみるとするか。
「おい、ジュースをもう一本をよこせ」
「お前、飲み過ぎじゃね?」
「うるさいのじゃ、はよせい!」
このクソ生意気な魔王め。
……良いことを思いついた。
姉の件も飲み物の件も全てお返しをしようではないか。
「スズラン今から勝負をしないか? 勝ったらそのジュースがずっと飲み放題だ」
スズランが目を光らせてこちらを見る。
「おぉ〜受けて勝つぞ」
「別に受けなくてもいいんだぞ? 情けなく勝負を捨ててもいいんだよ?」
「どうせ我が勝つからいいぞ」
スズランの同意を得た。
では、
さっきのお詫びも含めて、お返ししてやるよ。
魔王スズラン。
キッチンに向かい準備に取り掛かる。
冷蔵庫から紙パックのアップルジュースを、キッチンの棚から黄色の液体を取り出す。
二つの紙コップを用意、その中にアップルジュース、黄色の液体を入れる。
机の端に紙コップを置き、準備は完了だ。
「片方がアップルジュース、もう片方が素晴らしい味のする物。アップルジュースでは無い方を当てるゲームだ」
「ほぉ~なるほどのぉ、紙コップは動かしちゃだめか?」
「あぁ、駄目だ。見た目だけで判断してくれ」
スズランは何か気づいたか表情を浮かべる。
「勇者よ……何故机の端に置いたのじゃ?」
びくりと体が跳ねる。
「さぁ~何ででしょうか」
「我にはわかるぞ。ずばり、机の端に置いた理由は見た目で判断しづらくすため。夕陽の光でわらわが分からないように、夕陽の光があまり当たらない、暗い机の端っ子に置いたんじゃな」
「……どうかな」
「ふん、でも……考えなくともわかるんじゃがな」
スズランの紫色の目が輝く。
よく見てみれば、小さな魔法陣が眼球にある。
知っているよ。
それは魔王の魔眼。
見た物を分析し、弱点、強みを把握する魔眼だ。
ゲームではよくその魔眼に苦しめられた。
「忘れていたのかの? 勇者よ。わらわの魔眼は見たいものがハッキリと見えるんじゃ、例え、暗いところに置いてある紙のコップの中でもな」
ドヤ顔で魔眼を扱い、一つのコップに指を指す。
「これが素晴らしい味のする飲み物じゃな」
「…………本当にそれでいいのか?」
「アップルジュースにはもう飽きたんじゃ。早くしろ!! 次の新しい飲み物を飲みたいんじゃ!!」
「わかった」
紙コップを握り、スズランに渡すとゴクゴクと飲み干す。
スズランはあまりにも素晴らしい味だったのか紙コップを地面に落としてしまう。
「ぐぇぇ、これのどこが素晴らしい味のする飲み物じゃ! 滅茶苦茶まずいぃ、水……水を寄越せ!!」
「いや酢って呼ばれる素晴らしい味のする物だよ」
黄色の液体の正体は、ツンとした強い酸味のする素晴らしい味の酢だ。
残念だったなスズラン。
勝負にとって一番の最善策は受けない事だ。
これは参加者が徳をしない勝負、ゲームで言えば、負けイベント。
例え、酢の存在をスズランが知っていて、アップルジュースを選んでも、ゲームのルール上負けとなる。
酢を選んでも、不味い酢が飲み放題。
勝負の参加者は、不遇の未来が確定する。
魔王スズランはプライドのある調子を乗った魔族。
適当に煽ってゲームを参加させた時点で俺の勝ち、何よりもアップルジュースを選んでわざと負けるなんてことはしないと考えた。
勝負上は俺の負けだが別にそんな事はどうでもいい。
ただこの魔王に痛い目を合わせたらそれでいいのだ。
「くそぉぉ、勇者め」
「クックック……これから素晴らしい味のする酢が飲み放題だ良かったね、魔王」
「こんなの嬉しくないぞぉ!!」
スズランは力いっぱい頬を膨らませ、ポコポコと俺を叩く。
その姿はまるで可愛らしいハリセンボンのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます