第2話 情報共有の時間じゃ!

「……魔王城にいたら、いきなり魔法陣が現れて、気づいたら俺の部屋にいたと」

「そうじゃな」


 スズランは俺のペットボトルを飲み干し、自分がここに来た経緯を話す。

 俺も自分が知っていることを全て話し、お互いに情報を共有していた。


「しかし、わらわと勇者が戦っていた世界はゲームで創られた世界じゃと……なんとも馬鹿げた話じゃ……あ、このあっぷるじゅーすってやつおかわりじゃ!」

「そうだな……アップルジュースね。はいよ」


 アップルジュースをスズランに渡すと、彼女は笑顔一杯の顔になり、飲み物をゴクゴクと一瞬でペットボトルの中身を空にする。


「勇者よ。わらわがこの世界に来たのはお前さんの持つゲーム機のせいじゃな」

「……何が言いたい?」

「わらわが元の世界へ戻る日が来るまで、この家住まわせて貰うぞ!!」

「無理無理無理」


 東家ひがしけの住んでいるこのマンション、ここには二人の人物が住んでいる。


 一人目はイケメンクールな俺の兄、もう二人目は愛情たっぷりな俺の姉。

 二人は遠い昔に他界した母親と父親の思いを受け継ぎ、俺を一生懸命育ててくれた大切な家族だ。


 そんな二人に迷惑をかけるわけにはいかないし、何よりも……こんな馬鹿げた話を信じて貰える訳ない。


 一番最初に考えるのは、犯罪関連で思われて、通報されるだろこれ。

 一人暮らしだったら、何とかなったが……このマンションには家族がいる。

 

 「い〜や、お前さんに否定権は無いぞ」

 「……住んでる家族になんて言ったら良いんだよ」

 「それはお前さんが何とかするんじゃな」


 頭を抱え必死に頭の回路を動かす俺。

 ……なんかよくわからんが、ゲーム機に頭突っ込んだら戻んないか?

 机の引き出しに突っ込んだら、元の世界に帰らないか?

 いや、それ某猫型ロボットか。


 ガチャ。

 遠くから扉の開く音が聞こえた。

 玄関だ。

 今の時間は午後5時30分……いつもこの時間に帰ってくるのは…………姉さんだ。


 頬に流れる雫。

 焦り、汗が流れる。


 「ただいま〜ごめん、蒼矢。荷物を運ぶの手伝って〜」

 

 咄嗟に魔王の手首を掴み、部屋のロッカーに誘導する。

 小声でスズランに声を掛ける。


 「……スズラン、とりあえず今のことはまた後で話そう。いいか? 絶対にこの部屋から出るなよ? 姉さんがもしもこの部屋に近づいたらすぐにロッカーに隠れてくれ」


 スズランは俺の思いが伝わったのが、真剣な顔で頷く。

 さすがスズランだ。


 部屋の扉を開けて、玄関に向かう。

 夕陽の光、穏やかな風が吹く玄関にて、大きなビニール袋を両手に抱えるお姉さんの姿。


 東陽葵ひがしひなた、強い母性を持つ女性。

 現在、保険会社に就職している26歳。

 花が大好きでよく昔、花冠を作って遊んでいた記憶がある。


 肩まで伸びた美しく長い髪。

 吸い込まれそうな黄色の目を持っており、彼女を見た者で穏やかな気持ちになる人はいないだろう。


 「お姉さん、全部持つよ」

 「ありがとう……重いから気を付けてね」


 野菜が一杯入ったビニール袋を受け取り、キッチンに持っていく。

 お姉さんは俺を後ろから見守るように歩く。

 うん、いつも通りだ。


「……」


 ……そんなことを思っていた自分を殴ってやりたい。


「あら!! 蒼矢のお友達?」

「おい、勇者よ。アップルジュース以外のジュースをわらわに飲ますのじゃ!」


 目の前の光景、キッチンにて、スズランは仁王立ちで立っていた。


 ……コイツ!!!!

 スズランはクスクスと笑いこちらを煽る。


 俺には彼女はおろか女性の友達が今までいたことが無い。

 スズランはこの説明の困る絶体絶命の状況にして俺を困らせようとしているのだろう。


 ……ゲームで言ってたよなコイツ、確か1500歳言ってたよな。


 何が1500歳だ、ガキが。

 ふ〜ん、現実世界でも関係なく戦いのゴングは鳴ってるってことか?

 これは宣戦布告ってことでいいか?

 魔王スズラン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る