第2話 ネムネムした女

「よし、準備はいいか、俺が貴様とともにダンジョンに潜る教官だ。しっかりついてくるように」

「むー、…わかったの」


今日の冒険者見習いはなんか、やる気あるのかないのか分からんな。

一体何を考えているんだ、冒険は命がけだと言うのに。


「おい、貴様何だその返事は、ダンジョンを舐めているのか?」

「むー、舐めてないの。私頑張って索敵してるの」


なんだコイツ、よく見たら顔が幼いな。冒険を舐めた顔してやがる。


「索敵しているようには見えないな、貴様なぜそんなに目を細めている!まさかとは想うがほぼ寝ているんじゃないか!?」

「むー教官失礼なの。私はこういうスタイルなだけなの」


「ふん、ならしっかり索敵することだな」


怪しいな、こいつも”根本的に間違ってるやつ”の可能性がある。

ここは注意してみていく必要があるな。


「むー、教官、前方にホブゴブリン10なの」

「確かにそうだな。貴様の索敵は正確だな」


ふむ。盗賊としての最低限の働きは出来るらしい。


「むー、当然なの、私の索敵は完璧なの」

「よしまずは俺が先陣を切ってやつらを食い止める!いくぞバスター…」

「——秘剣・影斬かげきり」

「…」


ホブゴブリン10は稲妻のような黒い影によって一瞬で引き裂かれ、殲滅せんめつされた。


ホブゴブリン10は跡形もなく消え去った。




「やはり貴様もかああ!」

「むー、どうしたの教官」


「やっぱり怪しいと思っていたんだよ貴様!その幼い顔つきにトロンとした目!どう考えても冒険を舐めているな貴様!」

「むー舐めてないの、教官こそさっきからおかしいの。顔とか目とかばっかり言及してルッキズムの権化なの」


「黙れ!俺はルッキズムなどではない!俺は貴様の存在もろとも否定してやると言っているんだよ!」

「むー!?そっちのほうが酷いの!」


女はぷくっと頬を膨らまし、腕をブンブン振って抗議した。


「時に貴様、冒険者はパーティではそれぞれ異なる役割を持つ。なぜだかわかるか?」

「むー、そのほうが効率的だから?」


「その通りだ!ならばなぜ貴様は先ほど剣を抜いたのだ!俺がバスターソードを構えていたのが見えなかったのか?なぜ俺が構えた後に、技を放った!」

「むー、教官の溜めが遅すぎるの、あれじゃゴブリンに囲まれちゃうの」


「タンクなの俺!受けて斬るスタイルなの!ぐっっっと引き付けて、ズバッとやるの!棍棒でペチペチと叩かれるのなんて上等なの!カウンターの餌食にするの!なぜ貴様にはそれが分からん!」

「むー、わかんないの、ダメージ覚悟とか正気を疑うの」


「貴様アアア!それがけないと言っているんだそれが!そもそもなぜ貴様はホブゴブリン10を一瞬で片付けられる!?敵が近づいてくる瞬間に全て切り捨てるなんて、貴様は全くといっていいほど戦闘に美学がない!」

「むー、教官の言ってることメチャクチャなの」


「黙れ!貴様らのような狂った人種は、皆が皆殲滅をしたがる、そしてなぜか貴様らはそれを可能にする力を持っている!それ故に貴様の戦いは血湧ちわ肉躍にくおどらん!全て一瞬で片がつく!それの一体どこに美学があるというのだ!戦闘の中で感じるホブゴブリンの生きたいという強い思い、負けたくないという底意地そこいじ胆力たんりょく!そういったものを感じることなく貴様は一刀で斬り伏せてしまうではないか!全く持ってナンセンス極まりない!」

「むー、教官流石に横暴なの、教官は自分じゃ殲滅できないからそういう謎・精神論に逃げているって自白しているようなものなの」


「なっ!ぐぅ、確かに、俺は横暴だったかも知れない。貴様があまりに冒険を舐めた面をしていて、喋り方も何を意識してるのかぬぼっとしていて冒険を舐めているとしか言いようがない。加えてやはり腹は狙ってくださいと言わんばかりにむき出しだしで破廉恥だ。冒険を舐めているにもほどがある。そうだな、俺は少し間違えていたようだ」

「むむむー!文脈がおかしいの!全然反省している気がしないの!」


「やはり”かせ”が必要だな、貴様ら幼い顔を苦痛に歪ませ、安易に殲滅などと考えることすら叶わなくなるような強力な枷が…」

「むー、この教官ちょっとやばいの。犯罪臭がするの」


俺は、考えに考え、ついに最高の方法を思いついた。


「いいことを思いついた!おい貴様、帰還するぞ!今日の指導はこれにて終了だ!」

「むむ!?教官まだ来たばっかりなの!私の銅級昇格は一体どうなるのー?」


女はこの後に及んで試験の心配をしているのか、ふっ。


「そんなもの不合格に決まっているだろう!貴様は冒険者のいろはを学び直して出直してくるがいい!」

「むー!さすがに横暴なのー!」


俺は今思いついたこのアイデアを実現すべく、地上へ帰還した。

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