第3話 食糧調達へ
「リアーナ、先生、戻った」
隔離された場所を抜けた私とステラは外で待つリアーナと先生に声を掛ける。
すると、リアーナは泡を食ったように飛び出し、ステラに駆け寄る。
「ちょ、ちょっとステラちゃん!? 何でまた勝手に入ったの!?」
「リアーナ……だ、だから、私は大丈夫って……」
「大丈夫って絶対の保障なんて無いでしょ!! いつ罹っちゃうか分からないんだから!!」
声を荒げ、ずいずいっと小さいながらも顔を寄せるリアーナ。
胸の辺りにしか顔が届いていないが、その覇気に押されているのか、ステラは両手で静止をするようなポーズを取る。
「お、落ち着いて……か、勝手に入った事は謝るから……お、おほほ……」
「……そうやって笑う時はまたすぐにやる気でしょ」
「お、おほほほ……」
「ほら~……!!」
じとーっとした湿った眼差しをステラに向けるリアーナ。
ステラはたじたじといった様子。完全に悪い事がバレた子供のようだ。
「それで? どうでしたか?」
先生の問いかけに私は小さく頷いた。
「ああ。進展があった。病に関してだが、少し待ってくれ」
私は辺りを見渡す。隔離されたエリアから少し離れた場所に僅かに残った広場がある。
あそこが良いだろう。
私はそこに足を進め、右手に持った石で円形の幾何学模様を描いていく。
これはサイズ感を掴む為に創る錬成陣。
あそこで眠っている人たちの『錬成水』を作るにはそれなりに大きな器が必要だ。ただでか過ぎてもダメだ。
私はパチン、と小気味良く指を鳴らす。
すると、錬成陣が光り輝き、錬成陣と同じサイズの桶が現れる。
「良し。器はこのくらいだな。後は……」
私がもう一度、パチン、と小気味良く指を鳴らす。
すると、何も無かった桶の中身に水が滴り落ち、それが並々に注がれていく。
まるで滝のように突如流れたソレに三人がビクリと肩を震わせる。
「な、何ですか!? 急にって……お水?」
「これは……さっきの?」
「……これは一体」
三人は並々に注がれた透き通った水を見つめる。
水面には三人の顔が浮かび、底も綺麗に見えている。
私はそれを二杯汲み、リアーナと先生に渡す。
「それを飲んで欲しい」
「これを……?」
コテン、と可愛らしく首を傾げるリアーナはコップに口を付ける。
先生もまた疑念の目を私に向けてくる。
「……これは何だ?」
「それは錬成水と言って、体内の毒を打ち消す効果がある。それを飲めば、君達の病は完治する」
私の言葉にリアーナと先生は驚愕の色に顔を染める。
それから水を訝しげに見つめる。
「こ、これで……治るんですか!?」
「そんな事ありえない!! 医者も錬成術師も匙を投げたんだぞ!?」
「ありえない……そのありえないを形にするのが錬成術ですから」
「っ!?」
私は先生に水を見せながら、言葉を続ける。
「錬成術は創造の力と言ったでしょう? 全ては人間が持つ創造力。まぁ……腕もあるんですが、基礎はソレです。創造。こうだったら良いな、という希望。それが錬成術なんです。
ですから、今回、錬成術は貴方たちの希望となったんです。それがこの水」
「そんな……まさか……本当に?」
「先生。私は見ましたわ。私のお父様がその水を飲んで良くなる姿を。ですから、その水に間違いはありませんわ」
ステラの言葉に先生は目を見開いたまま水を見つめる。
リアーナはその水を飲み干し、口元を抑える。
「これは……味がしません……でも……不思議です。さっきまで感じていた気だるさが一気に無くなってる……」
「錬成術で創ったものは所詮、創造の産物。相当、味に精通しなければ味の再現は難しい。それに今回は効能をメインとしたものですから。味は少々、目を瞑って頂きたい」
「……オルタナさん、あ、ありがとうございます!!」
「……っ!? これは……本当だ。ダルさが無くなっている……これは……奇跡だ!!」
先生も一気に水を飲み干す。
すると、顔色が戻り、血色を取り戻す。先生は目を見開いたまま、リアーナに声を掛ける。
「リアーナ!! これを患者さんに飲ませよう!! すぐに!!」
「は、はい!!」
「少し待って下さい」
私が声を掛けると、二人は動きを止める。
「その水を飲ませる事は間違いありません。しかし、一つ問題が」
「問題、ですか?」
「はい。患者に飲ませた後、数時間で目を覚ますと思います。すると、何が起きるのか。衰弱していた身体がエネルギーを取り戻す為、強烈な空腹に襲われるんです。これをどうにかしたい」
私が言うと、ドンと小さな身体でリアーナが胸を張る。
「フッフッフ。オルタナさん!! 料理と言えば私に任せて下さい!! たくさんの人が美味しく食べるんなら、やっぱり私特製のリアーナカレーですから!!」
「リアーナ、カレーを作るのは良いけれど、食糧はどうするの? 今、この村にそれを賄えるだけの食糧はあるかしら?」
「あ……」
忘れていたと言わんばかりに目を丸くするリアーナ。
すぐさま声を張り上げる。
「ど、どうしよう!? ステラちゃん!? このままじゃ皆が餓死しちゃう!!」
「もしかして、問題ってそれですか? オルタナさん」
「ああ。話を聞くにこの村はかなり財政、食糧状況が厳しいと聞く」
私がそんな話をすると、ステラが申し訳なさそうに顔を俯かせる。
それを見ていたリアーナは心配そうにステラを見つめ、声を掛けようとする。
しかし、それを遮るように先生が口を開いた。
「では、食糧は調達するというのはどうだろうか。確か……村の裏にあるスマラナ山。あそこには天然の動物たちが居るはずだ。それを捕まえる事が出来れば……」
「ええ。そういう情報が欲しかった。私はそちらの食糧調達に向かうとしよう」
「それ、私も同行しても良いかしら?」
腕を組み、ステラが私を見つめ、尋ねてくる。
「勿論。現地の人が居るのは有り難い」
「では、私は患者たちにこの水を飲ませるとしよう」
「あ、私も手伝います。食糧が届き次第、カレーを作りますね」
各々やる事を決め、バラバラに散らばる。
これでこの村に蔓延る病を治す事が出来た。しかし、まだまだ根深いようにも感じる。
私はチラリと、ステラを見る。
ステラは何かを吐き出すように息を吐いた。
気になるな。
「……何かしら?」
「……いや。何でもない。こちらも動くとしよう」
「ええ、そうしましょう」
この機会に色々と話を聞いてみよう。
この村はどうにも気になってしょうがない。
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