第7話 司書たち
「もう来たのか、ワスレナ」
ギルティが扉を開ける。
そこにいたのは……真っ白なブタだった。
ホタルは呆気に取られる。
ホタルはブタ自体は見たことがあったが、体が白いものは初めて見た。体はホタルが抱き上げることのできるほどの小ささで、おまけにその両目は柔らかいピンク色をしている。
ぶう、ぶう。
またワスレナが鳴く。
「悪い、まだホタルに本について話してなくて、お前と会話はできないんだ。そろそろ歩けるようになったから現物を見せて話そうと思って」
ギルティがしゃがみ込み、ワスレナの鳴き声に答えるように何事かを話した。
「ギルティ、ワスレナと話せるの?」
ホタルが聞くと、ギルティの代わりにワスレナがまた、鳴いた。
ぶうぶうぶう。
「ああ、そうか……」
ギルティは腕を組んで何かを考えていたが、ホタルに聞いた。
「ホタル、そろそろ図書館を案内してもいいか?それに、そうすればワスレナと話せるようになる」
「ワスレナと?」
一体何を言っているのかよく分からなかったが、ホタルは頷いた。
「……行ってみたい」
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ギルティは一度部屋を出て、館長にホタルが館内を見る許可をもらってきた。
「いいってさ。だが無理はするなって」
そう言って戻ってきたギルティは、木でできた車椅子を押していた。
「もう歩ける」
ホタルは言う。手洗いが廊下にあるので、もうすでに何度か部屋の外に出ていた。
しかし、「確かにベッドから出るのはできるだろうが、かなり歩くからこっちの方がいい」と聞き入れてはもらえなかった。
ホタルは諦めて車椅子に腰掛ける。クッションが上に打ち付けられているので座り心地が良かった。
ギルティが「寒いかもしれないから」と言って毛布をホタルに手渡す。ホタルはそれにありがたく包まった。
「じゃあ、行こうか」
ギルティが車椅子をゆっくりと押してくれる。
ワスレナは振り返りつつ、2人の先を歩いていった。
部屋を出て右に曲がると、ホタルが3人も収まるほど幅の広い廊下が長く伸びている。
ホタルがいた部屋は館長の部屋がある左手奥から4番目の部屋で、手洗いはすぐ隣にあった。
ゆえに、反対方向に行くのは初めてだ。
ホタルが廊下に目を戻すと、床にはワインレッドの分厚い絨毯が敷き詰められていた。車椅子の車輪がそれに沈み込んで進みづらそうだ。
壁紙は落ち着いた色合いの細かい花柄。点々と置かれた調度品はホタルが寝ていた部屋のものに似ている。所々に黒っぽい金属でできた人物像が置かれていた。
2人と1匹はその中心をゆっくりと進んでいく。
廊下にそって豪華な縁取りをした窓がいくつも並んでいた。大きく開いたそこから外が見えたので、ホタルは思わずそちらを見る。
深い緑色をした、雄大な山と木々。不思議なことに、その一部が白く染まっている。
全く見たことのない景色だ。
ホタルが見ているのに気づき、ギルティが窓の前に車椅子を止めてくれた。
「そうか、森しか見えなかったよな、あの部屋。国立図書館はこんな山奥にあるんだぜ」
ホタルは外をじっと見つめる。空までも白っぽく、太陽の光もどこか弱々しかった。
窓越しに感じる空気がぴりっと冷たい。
「なんで山が白いの?」
ホタルが尋ねると、ギルティが「ああ」と合点したように言った。
「雪を見たことないんだな」
「ゆき?」
「寒くなると、空から柔らかくて冷たい、白いものが降ってくる。それのことだ」
ギルティが説明してくれたが、ホタルはあまりぴんとこなかった。再度窓の外を眺めながら首を捻る。
「軍の遠征で北の方に来なかったのか?」
ギルティが聞いた。
「行ったことあるのは……クリムソン、パライバ、あと、レッドアース」
「そうか。全部南の方だな」
ぶうぶう。
鳴き声が聞こえて、ギルティとホタルは窓から目を戻す。ワスレナが2人を見ていた。
「ああ、そうだな」
ギルティが頷いてまた車椅子を押し始める。
相変わらず何を言っているのかホタルには分からなかったが、ワスレナは「そろそろ行こう」というようなことを言ったらしい。
「まあでもそのうち外にも出られるさ」
ギルティがホタルに言った。
そのまま、ギルティはホタルに館内の説明をしていく。
ギルティによると、廊下に並んでいる部屋のほとんどは空き部屋だそうだ。
空いていない部屋では司書たちが暮らしているという。ホタルは司書が図書館に住むものだと初めて知った。
司書はクロ、クロクロ、マックロ、ギルティ、ワスレナの他にあと3人いるらしい。
「今は遠征に出ていてな」
ホタルはギルティのその言葉に違和感を覚える。
司書になぜ遠征が必要なのかと聞いたが、「後で説明する」とだけ言われてしまった。
他には、廊下の一番先にあるのが看護室であることも分かった。
「ホタルもはじめは看護室に運ばれたが、司書として雇うことが決まっていたからすぐにあの部屋に移されたんだ」
「でも、館長が部屋を貸すって……」
「住む部屋について好きに選べってことだろう」
ホタルが何か答えようとすると、前を歩いていたワスレナが振り返った。ギルティも頷く。
そこは廊下の端だった。廊下が途切れた部分から、捻れるような階段が下に続いている。
「じゃあ、今から車庫に入るぞ」
ギルティが言った。
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