フェチ

平 遊

俺だけのものだよ

 世の中にはフェチなるものが存在するらしい。そして俺も、フェチとかいうもののようだ。

 何フェチかって?

 そうだな……赤フェチ、だろうな。

 あぁ、赤ならなんでもいい、って訳じゃあない。


 君の。

 君が。

 身につけている赤が。紅が。

 俺には堪らなく刺激的なんだ。


 なのに。

 俺がこんなにも恋焦がれて心から欲しているというのに。

 君が全力で俺から逃げようとするから。


 君が、悪いんだよ。

 そう。

 君が、悪いんだ。


 でも、大丈夫だよ。

 心配しないで。

 ほら。

 俺が一生大切にするから。

 誰にも、指1本、触れさせないからな。

 君は俺の、俺だけのものだよ。

 君のこの紅は。

 君のこの赤は。

 永遠に俺だけのものだよ。


 雪のように白い肌。

 ああ、口紅が少し取れてしまったね。

 俺が付け直してあげよう……うん、よく似合うよ。

 さぁ、目を閉じて――あぁ、目はもう閉じていたね。準備のいいことだ。

 さぁ、口づけを交わそう。いつものように。


 ひんやりとした肌。

 俺はね。

 君のこの血のように鮮やかに彩るペディキュアを施されたつま先が、本当に心の底から好きなんだ。愛しくて愛しくて堪らない。

 口付けをさせてもらうよ。俺の気の済むまで。

 大人しすぎる君は少し物足りない気もするけど、暴れまわるよりはいいかな?


『……発見されたのは、頭と両足首が切断された20代から40代の女性。身元を確認できる所持品は無く……』


 無粋なニュースばかり流すテレビは消してしまおう。

 今は、君と俺との大事な、愛の時間なのだから。

 まぁ。

 この先もこの時間は、永遠に続くのだけどね。誰にも邪魔なんかさせやしないさ。


 さて、口付けの続きをしようか。

 まずはこの可愛らしい小さな小指かな。そして慎ましやかなこの薬指に……ふふっ。それにしても本当にエロティックだねぇ、このつま先の赤というものは。

 堪らないよ……本当に、堪らない。


【終】

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フェチ 平 遊 @taira_yuu

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