第38話 圏外の陥落街は朽ち果てて

「ガブリエルっ‼︎ 」


 ただ唯一の果てに死せる者、贖罪は果たされました


「ADAPTした」



 茉莉花はビルの鏡面ガラスを割ることなく吸い込まれるように通り抜けていった。それは鏡面に向かってゆっくりと浸水していくようであり、反対に 6.0 haven 側からは外部から浸漬してくるようにその姿を現す。

実際には波紋を生じることさえなく鏡は瞬時に茉莉花の姿のみをこの世の果てから抜写す。




 通り抜けるや否やポータルに向かって再展着を済ませた。

茉莉花にとっては慣れた出で立ちであり、それがあたかも自然な装いとあっては依然状態も相当に進行しているといって過言ではない。


 すぐ様、半身になって身を屈めると熾火で頭部から足元へ向けて火壁の如く、リネンの放った矢を熾火でさらう。


「ここには貴方の求めるものはありません、カラム=シェリム」


「求めて来たわけではないんだ」

「では、何を抵抗するのです」


 貴方に贈る讃美 ──── 死追しつい矢紋やもん 第9番kill 9



 6.0 haven ではリネンの動きを局面として捉えることは叶わない。

行動の始まり・実行過程・終わりは同一動作と成し得る、全能の存在。

だがしかし、全ての矢を防ぎ切れないまでも、致命傷を許すほど茉莉花も遅れをとってはいない。


「貴方の今の行いが未来を大きく変えるというのなら、私の過去の行いが今を大きく変えていたはず……」

「何の話しをしている、リネン」

「世界をというのなら、セラフィムも共生対象の一粒というのなら、【ZAIRIKU】の叡智などな膨大な過去の歴史の記帳にしか過ぎません」



「過去も 未来も 今ならどう見えるんだ? リネン」

「神化の未知を貴方に伝えても解るはずもありません」



 カンなどなくてもリネンが云うは、そこはかとなく此処にあるのが解る。そしてその容を成すものとリネンが同一のものとなって繋がったのだろうという事も。




 ならば此処の全てが一粒one dot ────




融合とは進化ではなく、一つの構成単位になることに他ならない。



「リネン 忘れ物だッ」

     茉莉花が放り投げたのは展着したサンキャッチャー



 滅するは幻黒燈火げんこくとうかかげり ────



 光のない 6.0 haven に膨大な光が銀河を映しだした。

サンキャッチャーを捉えた集光は光を紡ぎつづけ、降り注ぐ光が更に呼応し合って無限の流星群を描きだす。


ZAIRIKUザイリク】をもってしても未だ光の速度を越えるには至らない。




 肥大した知識と記録は思考を鈍らせ、比較することでしか導き出せない未来では遅すぎる。



 リネンは流星に置き去りにされた。



 光は容を成すもの全てに等しく降り注いだに違いない。そして善行にも悪行にも等しく降り注いだに違いない。その美しい光は、報いと裁きを併存させるのに足る一瞬の煌めきだったのは確か ────



「私の …… ここまでの…   」



 茉莉花も熾火で防いだとはいえ、ただでは済んでいない。朧げにリネンが見えるのはどちらが風前の灯火なのだろうか? それさえも判らない中、茉莉花に向けてリネンの止め矢が射られた ────



 茉莉花は手をかざして放たれた矢を眉間に受ける。



「…… ADAPT せよ 」



 矢は茉莉花の手にある筥迫の鏡を通り抜けるとすぐ近くのポータルから突き出してリネンのこめかみを射貫いた。




 6.0シックス haven が文字通り消灯する。

今あるすべての機能が停止してしまう、その前にあの場所へ。『あのポータルから』と這いずる様に身を寄せて接続を試みる。このまま圏外となってしまえば、この狭い無機質な空間だろうと雑貨のコラージュで埋め尽くされた世界であろうと居場所を見失ってしまうことは避けることが出来ない。


 所詮、すべてのものは ADAPT し合うからこそ

       此処に存在することを知り、知らせようとする



 消灯する刹那の狭間、その身は想いのもとへと抜写す。



つづく

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