第37話 それぞれがあるがままに

「待ってたぜ、この時を‼︎ 見せてやる」


 一期一会 万来鳥火ばんらいちょうかで大入り千昧せんばい ────



 暁 一条のフルスイングがセラフィムにインパクトする瞬間、0.002秒を切り抜いてループを実行させた。

100発近いフルスイングを一点に絞って打ち込んだ衝撃は人ならざる力で彫刻の様なセラフィムを粉砕した。


 キマった ────

 煉獄鳥の極みとかで締め括った方が良かったか?

 茉莉花に見せてやりたかったな



「おい、見たかクダチ、俺のフルスイングで飛んでったぞ!!」

「上出来だ、急いで駅の方に向かえッ」



 クダチは 暁 一条 の頭のてっぺんに司令塔として陣取った。



 あの改装中のダンス教室に向かうには元きた道を戻り、サンヒルズ サウスホテルの前を突っ切って行くのが近道だ。セラフィムに出くわした状況から上で何かがあった、そして茉莉花が下に降りてくるというシチュエーションをクダチはカンを期待という不確定なものと混ぜ合わせて抱きはじめていた。


「急げ、一体撃退したのはバレた可能性がある、もっと大勢来るぞ」

「何っ? 誰にバレたって?」

「マッシブビルドな女神にだよ」

「何だそりゃ?」


 サンヒルズ サウスホテルに向かって走っていたその時だ。上空で向かいのビルにADAPTする茉莉花の姿が目に飛び込む。

「オイ、クダチ。今の見たか? あれ茉莉花ちゃんだよな?」

「滅茶苦茶しやがる」


 立ち止まって上を見上げていると重金属の塊とでもいうべき毬栗いがぐりが落ちてきて地面にめり込んだ。がめり込んだ地面から這い出すまでシームレスとも言える速度で且つ、甲虫が這い出すような動きに身の毛がよだつ。それがナニなのかクダチは直ぐに察知したが言葉として表すには余りにも複雑な化合物。


「ヤバいのが落ちてきたぞ、迂回しろ」クダチは右足で掴んだ髪の毛を強めに引っ張り舵を切る。


 ファティマですらないエセた混ぜ物は、目を光らせて此方に向かってきている。


「ファティマだッ 逃げろーッ」

「クダチ、お前さっき悪い子じゃないって言ってなかったか?」

「ここで二手に分かれて巻くぞ」クダチはそう言うと土台となっていた暁 一条の頭頂部から離陸し始めた。

「おいクダチっ!? お前キタねーぞッ!!」


 ファティマはアスファルトに刃先を押し当てて “カツカツカツカツ” と耳障りな音を響かせて迫りくる。

「クダチ、お前友達なんだろ、飛んでねぇーで何とかしろよっ」

「今はテメェーの客だろーが、走れねーなら、言いくるめろッ」


 節足すら持たないファティマのスピードは、暁 一条にギリギリ追いつくかどうかのデッドヒートにある。だが息を切らせば、間違いなく捕食されてしまう。


「死にたくなけりゃ死ぬ気で走れ!!」


 火事場の馬鹿力ともいうべき瞬発力がファティマを引き離しはじめた。だが一息だけではすぐに無尽蔵であるファティマに追いつかれ、事切れてしまう。

「死ぬっ」暁 一条はそう悟っていたのかもしれない……、記録が残っていればの話だが。


「安心しろ、息が止まるまでループしてやるから」クダチはオーバードライブした暁 一条を操って駅を目指す。



 その頃コーラスは、改装中のダンス教室で灯りもつけずに身を隠すようにして茉莉花とクダチを待っていた。筥迫と鍵が消えた事で茉莉花が展着を解いたことを自ずと認識させられ、目の前の鏡の扉ポータルから無事に戻ってくることを祈らずにはいられない落ち着かない状況にあった。


 茉莉花が戻るのが先か、クダチが合流するのが速いか。

鏡が薄らと透けたかのように見えた、先に戻ってきたのは茉莉花……、ではない。リネンの寄越したセラフィムだ。コーラスは部屋の角で綿埃わたぼこりのように丸まってやり過ごすと彫刻のようなセラフィムは、ゆっくり辺りを見渡して外へと出ていった。


 ここに居ては茉莉花だけではなく、あのセラフィムも出現する。コーラスは身を隠そうとした時だ、通路から人々の叫び声が聞こえてきた。


 コーラスはこっそりと外の様子を窺うと使者達に混ざって人間の親子がそこに居た。セラフィムが使者達を跳ね退けてその親子に近づくと小さな女子が大声で泣き叫んだ。コーラスはエフェクトの出力を最大限に引き上げると、セラフィム目掛けて体当たりする。


 無論、セラフィム相手では毛糸玉のようにコーラスが転がっていっただけでびくともしない。セラフィムが転がる因襲の使者を踏み潰そうと歩み寄った。

「親子を連れて逃げろーッ‼︎」コーラスは丸まったまま転がって大声で使者達を巻くしたてる。

コーラスはセラフィムの足下を転がって陽動している間に、その場にいた使者達が親子を連れて避難させた。


 その時だ ────


 窓ガラスを突き破って数百羽の色んな鳥たちが『子の泣き声』を復唱し、群れを成すようにして呼び寄せられていた。幾らセラフィムとはいえとなって押し寄せる濁流と化した鳥たちには抗えず、その石像を窓の外へと押し流すと鳥たちは去っていった。


「茉莉花さん、早く戻ってきて下さい」



つづく

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