第36話 疾走の途切れ

 ファティマのはリネンと同じく異形の姿。


「図太いだけでなく、しぶとさも中々だなファティマ」

 茉莉花は寧ろそっちに驚いたという仕草を見せた。


 ファティマは激高し突進しようとしたがすぐに冷静になって地面に突き立った懐剣を自身の刃の側面で弾き飛ばした。

「その手には乗らん、確実に仕留める」


 茉莉花に煽られて飛び込んだ際に地面に突き立つ懐剣を熾火で吹き飛ばしてくる算段はお見通しのようだ。ファティマの実戦経験を継承しているだけあって下手は打たない。


は食えないヤツだ」と茉莉花も残念そうに返した。


 ファティマとの一進一退の攻防と硬直状態が暫く続く、ファティマは失った手足を再生する気配がない。攻め続ければ活路はあるのだろうが、警戒されると長期戦は必至。何れにしろ面倒な状況には違いない。




ADAPTまで残り5分

 ここで時間切れというのは避けなければ

 奇策はないが万策が尽きたわけでもない、焦るな

 機を見極めろ

 



残り4分 ────

 刃は無尽蔵に飛び出てきて直接叩き込めそうにない

 肉を切らせて骨を断ってもよい、とは言えないな

 だが、やるなら早めにしなければ短時間では再生し切れない




残り3分 ────

 刃がファティマを覆って攻防の一体化が進んで攻めきれない

 わたしの方が制限時間とあの刃で針のむしろになるとはな

 擬きというのは訂正しなくては、ファティマそのものだ




残り2分 ────

 何とかして扉を潜って外に出ねば …… 本当にしぶといな

 どうする? もう口も聞かぬプロトコルですらない刃物だぞ

 コーラスも手間取っていなければ解錠は済んでいる頃合い



 ファティマは四肢を失い無尽蔵とはいえ刃の代用ではその動きも鈍ってきている。茉莉花も相当に刃先で刻まれ、いつもの異装も唯ならぬ装いだ。刃を躱した先にある脱ぎ捨てた羽織をすくい上げて袖に手を通すと指先に触れるものに気がついた。


 チャーチベンチに向けてそれを這わせる様に押し出すと、茉莉花は反対方向に走るや否や叫んだ。


「コーラス! 何をやっている」


 ファティマも咄嗟にチャーチベンチを叩き斬り、隠れていたものいぶり出そうとする。ちょうど舞い上がったベンチの破片に紛れて白い使者の幼生体が見えた。

やや劣勢な均衡状態に差し掛かったファティマを模した異形は、ここぞとばかりにコーラスの方に詰め寄り、次の賽の目に賭けることを選んだ。


「何、、⁉︎」


──── あの白いヌイグルミだ。



茉莉花は脇目もくれず教会の扉を潜って疾走する。



 残り30秒を切っている、間に合わないか

 まだだ、今、祈るな DESTはその先だ


 目の前に天使が迎えに来ないのなら ────

 「こちらから行くまでだッ‼︎」



茉莉花は22階の屋上から通りの向こう側にダイブした。


 地上へ引きずり込まれながら展着を解くと、迫りくるビルの鏡面ガラスにガブリエルが姿を表し、地上へついてくるかの様に映り込んでいる。



「ガブリエルっ‼︎ 」


その指がガラスに触れるか否かの際だ ────




ただ唯一の果てに死せる者、贖罪は果たされました



「ADAPTした」



ビルの鏡面ガラスは世界を反転させずにその向こう側を映して茉莉花を誘った。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る