第30話 頭上の最深部はハレ一時DEST
今、その開始の合図をただ黙して待っていた。
「茉莉花、時間だ準備はいいか?」
「ああ 調整済みだ」
「茉莉花さんならきっと大丈夫」
目の前の券売機、これに[大人1人] [4] [0] [4] [#] と
「ここには存在せず……か」そう呟いてキーを入力し終えた。
もう止まれない、引き返す事はできない ────
地上への階段を駆け上がるとショッピングモールへの連絡通路に向かった。大通りを跨いで幾重にも繋がって歩道橋が架っている。この蜘蛛の巣の上で使者が引っ掛かるのを見渡していると、どうやらうまく掛かった様だ。
「茉莉花さん、あの人の様です」コーラスが指し示す。
こんなにも人が溢れるこの場所で、いつも直ぐ繋がるのが
歩道を行き交う人に美容室のチラシを配っている使者がいる。茉莉花は連絡通路から下へと飛び降りると使者の前に詰め寄って声を掛けた。
「6.0 haven の割引クーポンが付いているなら、くれないか」
使者は目の前のいる
「こちらになります」
使者からそう言われて返信ハガキ付きのチラシを受け取った茉莉花は、駅東側にある中央郵便局へと急いだ。車の往来が途切れることのない大通りに沿って足を進めていくと中央郵便局が見えてくる。郵便局出入り口の前にあるポストは通りのこちら側からでも容易に確認できる無口で優秀なインフォメーションカウンターだ。
「あのポストだ」茉莉花が自問自答するかの様に口にする。
「ここまで順調だな」クダチも確認するように掛け声をかけた。
ここまで6分も経過していない、時間には充分といえる余裕がある。
車の往来が激しく片側4車線もある大通り。突っ切っても良いが時間に余裕がある今、敢えて無駄なトラブルを起こす必要はない。信号が変わるのを待っていた際、受け取った返信ハガキをふと眺めると宛先が Society 6.0 deepest dest と印刷されていることに気がついた。
「宛先が最深部とはな意外だな、
冗談を真似たつもりで茉莉花はそう言ってみたのだったが、
「茉莉花さん、空を奥まで進み続けたら真っ暗で地面もないのだそうです」
「オマエ それ、冗談だろ?」
「リネン様からそう聞いたのですが違うのですか?」
クダチがどちらの意味でコーラスに冗談かと返したのは考えても解らなかったが、
っはははは ──── 茉莉花は笑った。
「まあそうだな、頭上はどこまでも地面がないのは確かだ」
そうだ、だからきっと誰にも届くことなんてないのだろう
このハガキは差出人不明で一定期間保管されて破棄を待つ。結果がそうなるとしても足止めしていた信号は気にも掛けずにGOサインを出す。ポストにハガキを投函すれば、次はサンヒルズ サウスホテル屋上だ。
ここからでは6分も必要ないくらいの距離にその場所は位置している。その鐘の音が鳴り響く3分前には到着していることだろう。
悪くない
2度も試すつもりはない、1度限りで充分だ
「オマエ、場所わかるのかよ」
「駅の出口にあった周辺地図を記録したから問題ない」
「ビルの屋上っていうとチャペルですよね」
22階建てのビル屋上にそのチャペルがある、そこに教会を模して鐘があるのだろ。その鐘の音を聴けば通りを渡って向かいのビルの窓に ADAPT するだけ……、茉莉花はその数分後の ADAPT に思考を巡らせていた。
あとは卵焼きにでもなっているだろうリネンとご対面だ
ただ、クダチとコーラスを連れて行くわけにはいかない
途中で何か口実をみつけて別行動に誘導しなくては
まさに抜けるというのに相応しいくらいに立ち並ぶビルの高さが空の遠さを強調していた。
もし茉莉花に嫌な予感というものを射抜く力があればまさに今、的中させていた事だろう。だがその感を抜きにしても不可抗力の
「 ッゼー ハーー ッ ーー 追いついた ーーッヘ フーー」
そう、暁 一条 ここに見参である。
「コイツ、どこにでも現れるな」
「茉莉花さん、急ぎましょう」
「急いでいるんだ、ここで待っていろ」
「 ちょ、ちょっと待ってくれ ゼーー」
茉莉花はそう言い残して置き去りにすると全力疾走で次の場所であるサンヒルズ サウスホテルへ向かった。いや、一目散にと言った方が適切だろう。
いったいどういう仕組みだ?と疑うべき存在だ、暁 一条。
つづく
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