第29話 歪な尾が生えてなお
傀儡が
それに使命執行と言えば聞こえも良いが、こんな争いに意味などない。
だからといって時間をかけて
ここを逃す手はない。
周囲に人が居なかったとはいえ、傀儡を焼き切るために試着室の周囲ごと色すら失せた灰にしてしまうのは過剰な力の行使に他ならない。
だがそれでいい、『やり過ぎるくらいで丁度いい』と茉莉花は自身に枷を掛けないようにコントロールしようとしていた。それはチグハグな行為、そう解っていながらも扉の鍵を開けるために自身の背中を押すしかない。
フロアの適当な鏡に姿を映して再展着を済ませると語りかけた。
「クダチ、コーラス。
「このままでもいいのですか?」
「アイツらがまた直すだろ」
「あぁ、そうだな。任せておいた方が問題ないだろう」
茉莉花たちは駅に向かって足を進めていた。
「調整中の券売機は複数台あるかもしれない」茉莉花がそう口にすると
「改札口は北と南の2ヶ所、2階に1ヶ所、地下に1ヶ所だ」クダチはこの辺りを担当していただけあって何処に券売機があるのかも把握していた。
「念のため全ての券売機を確認しておきたい」
北口に向かうと券売機は全て正常だ。地下に向かうと5台ある券売機のうち左端が調整中の張り紙がされている、恐らく
≒27分という制限時間内に解除手順をし終える必要はあるものの、茉莉花にとっては造作もないこと。問題があるとするならば手順の途中で『正午の鐘の音を聞く』という行為を挟まなければいけないことくらいだろう。
「祈りの鐘が鳴る15分前に開始しよう」
「オマエ、向こうに行ったらどうするんだ?」何気にクダチが聞くと、
「わかりません、茉莉花さんについて行きます」コーラスはそう返した。
そんな二人の会話を尻目に近くの柱にもたれ掛かった茉莉花は、『それを決める事は わたし には出来ない』と暗黙のうちに答えを出していた。無意識のうちに答えを出すのは刷り込まれた既成概念の一端でもある。
誰であっても 6.0 haven での存在の希薄さはどうしようもなく均しくて虚しい、だからこそトラブルもない。
「オレはどうするかな? 6.0 haven なんて何も覚えていないしな」
「そうですね。私も不思議と何も覚えていません」
それは ────
「記憶がないのは、わたしが改修したことに……」そう言いかけた。
「私はリネン様に助けて貰ったので『改修』というのは関係ありません」
「茉莉花、オマエの行動でいちいち善悪とか決まらないから安心しろ」
「……そうか、だろうな」どこか安心したような表情を浮かべた。
わたしは、何を喋っているんだ?
いつから良き者に、どこから悪き者になったのだ
茉莉花たちは券売機の近くでその時がくるのを待っていた ────
たとえ歪な尻尾が生えたとしても恥じることのない潔白さが茉莉花にはあった。そのままで完全なのだと認識が至れば、それが我と己の統合で
気負わないことで静寂した思考の流れが、分岐点ないこの道の先に照準を絞り狙い澄ましていた。
認証コードを入力すれば時間内に行き着く果てまで突き進む限りの一方通行。
そこに崖があるのではない、器の淵をただひたすらに突き進むのみ。
つづく
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