第27話 不等価交換の先で得るもの

 鏡が映し出す自身のイメージを前に間違え探しをするのは難題だろう。


「ADAPT 以外に試せることはないだろうか」

「あの筥迫はこせこはどうなのでしょうか?」


「あれは……、そうだな」ショートしている可能性も否めず危険を回避するため今は展着させなかったが、あれは集積された過去のイメージを展着させたもの。


「再展着させて中の鏡を確認してみよう」


「茉莉花、あのお守りってのは展着できないのか?」

「同じ物質として機能するものを展着させることは不可能なんだ」

「リネン様はあのカードをずっと以前から持っていたようですが」


 初めてリネンに会った夜、渡さた純銀製のカード ────

 あのカードは説明はできないが【ZAIRIKU】と同じように容を成すもの…… 有限の何か



 セラフィムは高次であれば思考の限界はあれど制限はない。

だが一方で【ZAIRIKU】は無限の思考を源流としながらも有限の容を成し、セラフィムを呼び出して使命を与えて遂行させる存在。



 リネンが言うには、低次のここではただの空間でさえ容の上になりたっているという

 それを何らかの方法で容を感知し、少しずつ集めたと言っていた

 同じ事は出来なくても、もう一度溶かすことはできそうだ


「やるべき事は決まった」



 人を巻き込まないためにも出来るだけ争いを避けることが望ましい。リネンと対峙することになれば『ポータルを割ろう』そう決意していた。そうする事で向こう側も直ぐには干渉できないからだ。茉莉花にすれば造作もないことではあるが、それは帰り道がさらに遠くなる事を意味している。


「なせば解る簡単なことに考えが過ぎたかな」

 茉莉花の自問自答にクダチとコーラスも同調するように高鳴りを抱いていた。



 ポータルを破壊し尽くせば何れは袋小路と化す。もしそうなれば 6.0シックス haven に於ける茉莉花の取り扱いは行方不明者、だからといって忘れ去れるでもなく、永遠に頭数に含まれることのない応答なしのダンプゴミ。そこにただ名を連ねるだけの記録の堆積物として埋もれていくのは今に始まったことではない。


だからといって最後の一枚を後生大事に残しておく理由もない。


 結果として全てのポータルを破壊してしまっても

 それが わたしの上がりのマス

 次のさいの目は必要ない、ただそれだけのこと


「紳士服売場のポータルへ向かう、行こう」

流石の茉莉花もあの試着室をもう一度使用することになるのは想定外。騒ぎの収まらない駅の人混みを横目にショッピングモールへの連絡通路を突っ切っていく。


「もう一つ上の階じゃないのか」クダチは婦人服売場に立ち寄った茉莉花に言った。

「先に筥迫の展着をすませておきたい」

「茉莉花さん、ここの店員は使者のようです」

「わかった」そう言うと手早く試着室の鏡で再展着を済ませた。


 相変わらず鏡は溶けた銀の糸が奥へ向かってショートしている。まるで鏡に映る自身のみぞおち辺りから銀の糸が出て鏡に繋がれているかのようだ。筥迫を開くと茉莉花の考察した通りショートしていない。

6.0 haven とは途絶しているとみて良い。


 二つのことが解った。

一つ、 終端の呼びかけをしていない鏡は 6.0 haven 側から見えていない

ニつ、 イメージから模造した展着物は鏡であろうとショートしていない


後でこの筥迫の鏡に終端の呼びかけを行うとどうなるか試そうと考えながらも、一つ上の階にある紳士服売場へ足は急いでいた。あの世話好きな店員が少し離れたところに姿が見えている。


「アイツはループさせる」

「コーラス、鏡に映らないよう注意してカーテンを閉じてくれ」

鏡の傍に立ってコーラスに次の指示を出した。


「そうしたらそのままカーテンの端を持ち上げて、あぁそうだ」

コーラスがそっとカーテンを掴んでゆっくりと捲りあげると、茉莉花は鏡の前に立った。


「わたしが攻撃を受けたらカーテンを離して閉じるんだ」

「わかりました」



 集中するんだ ────


茉莉花は少し鏡から離れて姿を映し数秒待機した。

終端への呼びかけをしなければ、6.0 haven 側からは未だ探知出来ない。

「ガブリエルは無事だな」茉莉花はそう確信していた、必ずまた表れると。


これで次の二手以内に交戦することも確定した。



つづく

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