第26話 加護は薄らぎ虚ろいは濃く
暁 一条をあとに再び本屋に戻ることにした茉莉花たち。
足の修復が完了し基の機能を取り戻せば復路など容易い。その俊敏で精細な足運びは瞬く間に本屋の近くに到着し行き交う人々に紛れ込ませた。外からビルを眺めると割れた窓ガラスも元通りになっており、茉莉花が落ちた地面でさえガラスの欠片やその痕跡すら見当たらない。
「ビル内に侵入するのは止めておくべきだな」
その何事もなかったかの様な光景は警戒を強めるには十分。先ほどこの場に居た人々はすでに使者に入れ替わっている可能性もあり、ここで交戦になれば部が悪いのは確実。
今はここを離れ機を窺うのが賢明な判断だ。
「アイツ等、あんなことまで出来るんだな」と、クダチが
「あの店の人達、大丈夫でありますように」遠い目をしたコーラスはそう願っていた。
駅に向かうと騒ぎが始まっている。
そう、それは鏡の奥に向かって銀色の糸が見えている問題。構内に設置されたモニターから流れるニュースも『謎の現象』『鏡の中の世界』だのなんだのと取り上げて騒ぎの周知に勤しんでいる。この手の問題に詳しい専門家たちも挙って世界中で検証をはじめ、勇んで我先にと見解を発表することにご執心となるのは時間の問題だ。
「茉莉花さん、もうここまでくると隠しきれませんね」
「隠す気ないなら本屋は元に戻していないだろ」とクダチが突っこむ。
「ああ、すぐに降ってこないのは助かるな」
モニターを見つめる茉莉花はそう口にしつつも何かを欠いていた、大切な何かを。
足と胸の機能は取り戻している、再生は腕に集中させればいい
この再生の遅さは低次での活動時間が長すぎるからなのだろうか?
それとも【
加護……、そもそもそんなものあったかどうか
6.0 haven との交信も断ち切れてガブリエルの伝達も受けとれない
結局あのポータルも ADAPT 可能だったのかも分からず仕舞い
多くのことは考えても分からないのに
正確に機能しない
虚ろだ、何もかも
「茉莉花。オイ、茉莉花⁉︎」
「ああ、どうかしたか」
「リネン様もよく、サンキャッチャーを見つめて『輝きはどれも同じではない』と言われていました。『今この光も一粒だ』と」
リネンはこの解のない苦しみに失意する事なく光陰を踏破していた
足を掴んで淵へと引きずり込もうと離さない尖鋭のささくれを絶ち
「オマエ、考え過ぎて自己ループしてんだよ」
「…………」
「茉莉花さん、3人いる時はそれが一粒ですよ」
今、この光も一粒か……
「すまない、わたしは……、誤っていたようだ。
孤独で長い道のりなのだと。
わたしは一人でもなければ、帰り道もただ遠いだけだ」
水面の揺らぎ輝きを生むように、茉莉花も新たな色彩を吸い込み精彩を放ち閃く。
このままでは終われない、この先がどうなっているのか確かめなければ
ここがわたしの活動限界というのなら、
「近くの接続済みのポータルに ADAPT を試してみたいのだが、他に試せることはないだろうか」
ポータルとして機能するか確認するだけならここから近い「紳士服売場」「エステ」の鏡となる。この2つなら早々に使えなくなったとしても支障は少ない。それに茉莉花以外にも
この混乱に乗じない手はない、条件なら整っている。
「いきなりリネンぶっ放されるぞ」
「鏡に映っただけで本当にリネン様に見つかるのでしょうか?」
「
「ガブリエルと交信可能か試してみよう」
「あの
「ガブリエルか、そうだな……【ZAIRIKU】のメッセンジャーみたいなものだ。概ねセラフィム専属ともいうべきだが」
「いつも笑顔ですよね、それが怖いくらいの時もありました」
「いや、いつも同じ
「オマエ、いっつもアレが同じ
「いや、見えてはいない」
「茉莉花さん、それって」
「自覚ないことだからな …… どうだか」
だがこの話しは疑わしいところもあった。
茉莉花に『至然化しているのだろうか?』と巧妙に認識させることによって無自覚に自主的な同調を強いるため、ガブリエルが僅かに表情を変えているというのもあり得なくはない。
踊らされた……、考え過ぎか?
ただ単にわたしも至然体なだけなのかもしれない
いつも完璧に同じならそれは鏡の向こう側で作り出した写像なのだろう
つづく
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