第24話 短絡的で最短の原理

 このポータルは茉莉花に直ぐに答えを示すだろう。


 関係者は揃い踏みなんだろ? 待たせはしない ────


「どうだ、周囲は」

「レジのヤツ、それにバックヤードに2人いるな」

「バックヤードの作業者の1人は使者のようです」


「クダチ、レジの店員をループさせたらそこの防犯カメラを隠してくれ、コーラスはエスカレーターを見張って人が来たら非常停止を」


「茉莉花、防犯カメラはどうやって隠すんだ?」

「腹を写せば隠れないか」

「あー〜〜腹な。オレのソフトモザイクで処理してやるよ」


 ── ぅクっ



「オマエ今笑っただろ⁉︎」



《カラム=シェリム、ポータルが一方通行ならばすぐさま撤退を

 ADAPTしたのなら互いに実体のない状態、分が悪いのは言うまでもありません》


「ガブリエルを従えていればリネンに際限はなさそうだな」


《このカードを熾火で焼き、リネンに向かって投げるのです

 先ずは動きを強制誘導して自由を奪わなければなりません》


「ぁぁ…… わかった」



 茉莉花の合図でクダチとコーラスが定位置に着くと作戦が開始された。

展着を解いた茉莉花はポータルの前に飛び出し ADAPT の所作をとった、と同時に鏡に映る茉莉花の左肩辺りに水滴が起こす波紋のようなものが映り込んでいる。


 ──── 矢だ、

鏡の向こう側、そうポータルの向こう側から放たれた矢が起こした波紋。



 貴方に贈る讃美 ──── 死追しつい矢紋やもん 第9番kill 9




茉莉花は咄嗟に右後方に飛び退いたが矢は既に左上腕部を貫通した後だった。

ポータルの向こう側が透けてリネンが映り込んでそこにいる。


鏡に映る茉莉花の右足太腿あたりで波紋が既に消えかかっている、透さず左に体幹を傾けたが矢は太腿外側を捉え突き抜けていた。


茉莉花は着地と同時に膝をついてしまった。



 解ってはいたが…… 速すぎる


《止めを刺しに眉間に放ってきます! 矢がポータルを抜写ぬきうつす前に投げるのです‼︎》


 追い詰められた茉莉花はヌイグルミごと純銀のカードを熾火で焼尽させて鏡に映る自身の眉間めがけて投げつけた。


溶けて液化したカードが鏡に当たるか否かのタイミングで、リネンの放った止め矢とめやが描こうとした波紋に吸い込まれていった。リネンの御業の矢がポータルを通過し切る前に、その矢を伝って鏡の内側に向かって液化した純銀は糸を引くかのように伸びて行き、ポータルの向こう側にいるリネンを突き抜けていった。


ポータルはただの鏡となり、向こう側6.0 havenにいるリネンを視認できない。鏡には伸びた銀の糸がこちら側に向かって茉莉花の眉間を貫いたかの様な反転した世界を映すだけ。


次の瞬間、

  鏡がフラッシュして何も映さない真っ暗な板となってしまった。



  《よくやりましたカラム=シェリム。見込んだ通りです》



 茉莉花が目にしたのはポータルの向こう側が『完全に映し出された』というよりも、反射物ではない本物の空間がその先にあるかの様な光景。


ただ銀の糸の終端が揺らいで見え、本来なら鏡による隔たりがある箇所に小さな波紋を浮かび上がらせることで、その先は別次元であることを認識することができる。


それは限りなく透明な湖面に釣り糸を垂らしたかの様に

 糸の先の獲物は ────



「何だと……」茉莉花は目を見開いた。

クダチとコーラスも鏡の先を直視した。




 そこには【ZAIRIKU】と融合を果たしたリネンが姿を現した。

それは最も合理的な一体化にして、心体融合を体現化させた成れの果て。

まごうことなき異形の仰々しさと自己崇拝の讃美を模した一つの容。


《レリジョンをせずに統治するのは至難。方法はすぐ見つけましたが実行できる適任者が現れるのをずっと待ち続けていました》


「何のことだリネン」


《そこに残った私が貴方と協力し、答えを導き出したのは必然のこと。文字通り、短絡的な手法でしたがこうする以外に統治する術はありません》



 短絡だとッ、ばかな


「はじめからこれを …… 」 ──── 体が動かない。

リネンから放たれた矢が茉莉花の右胸を突き刺すと、それは杭を持つセラフィムに変幻し、そのまま後方の壁に茉莉花を打ちつけて消え去った。



ZAIRIKUザイリク】をも力の源泉とする序列最上位者



       リネン=ヒム


 ──── 不完全な 最後のアダム ────



つづく

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