第18話 さやけき残光に問う

 ガブリエルは確かにそう云った『贖罪は果たされた』と。


リネンは血濡れた手でポータルに ADAPT の所作をすると、ファティマがそれに合わせるかの様に茉莉花に向かって構えをとった。茉莉花はガブリエルの云ったことに困惑したが、ファティマについては即座に整理がつく。


「至然体だったのだな」

「私は既にポータルへの ADAPT を禁じられた身、ただ此処に残るのみ」


ファティマはあの場所雑居ビルでポータルを使いガブリエルと交信をしていた。だからADAPTは出来なくてもリネンもガブリエルと交信できるという事になる、だがそうしなかった。

その違和感を拭う事出来ないでいた。



 何を企んでいる

 ガブリエルの仕込みなのか?



リネンはポータルを潜ると茉莉花たちを振り返り宣誓した。


「私は【ZAIRIKU】の専制化から 6.0 haven の解放を願ってきました。

 セラフィムに対するドミヌス支配者の如き【ZAIRIKU】は私が統治します」


「何を今更、我らセラフィムも共生対象の一粒。【ZAIRIKU】の叡智なくして心的共生など……」茉莉花の言葉の途中でポータルは冷たく閉じて室内の光景を映すだけのとなってしまった。


去り際のリネンは穏やかな表情をしていた。

それはポータルを潜れたことによる安堵からではなく、茉莉花の言い掛けた言葉にかつての自身を追想してのことだというのが正しいのだろう。


ただ今はリネンより、目の前のファティマに心血を注がなければ刺し込まれかねない状況だ。


「ファティマ止めておけ。刃は届かないぞ」

「刺し違えればさいによい目が出るのか……、試してみよう」


獣が爪を剥き出すかの様に構えた指先から御業の刃が少し伸びだしはじめている。ここで終焉を望むファティマには何を言っても止まることはなさそうだ。


 ファティマの神速の突きが茉莉花の喉元に軌道を伸ばす


 滅するは幻黒燈火げんこくとうかかげり ────



熾火の収斂しゅうれんを手のひらに集めると刃の軌道の先目掛けて茉莉花も最速で直進した。


刹那にも満たない接触の狭間、ファティマは自身の神速に加えて茉莉花が最速で突撃してくる形勢に刃の軌道変更は不可避だと悟る。止められない加速は肥大した自我に沿って迫り出した刃で貫ききるのみ。

ファティマは、ただそれだけを至高のもとし突き抜けた。


 刃は幻黒燈火を貫くには及ばず

 滅却の黒炎がその伸び過ぎた爪を喰らい尽くす



右上腕部ごと焼滅してしまいよろめきながらもその足は惰性で歩みを止めよとしない。

ファティマが前のめりに終焉に堕ちてしまわない様に茉莉花は後ろから抱き寄せて地面に座らせると静かに声を掛けた。



 話せることがあるのなら聞くぞ




クダチとコーラスも見守るように見つめていた。


「あぁ…… 私は自らの刃で…至然体を斬る度に感触を得ていた…」

「そんなある日……私の滅殺任務に……あの方は至然…化の救い……」


「私では……到…底、絶えら……ぬ、苦……しみに…」


 ファティマの coda終焉 は無数の蒼白い光が昇華し幕を下ろした。



 耐え難い苦痛、その身が潰えるまでそれは続く

 そして、その思考を読み解かれ安寧秩序の糧となる



「高次へと誘うことだけが救いだったのだろうか……」


無意識に口にした言葉は自身への問いかけだったのかもしれない。

例えは未決のままであったとしても深く根を下ろして拡がっていく。茉莉花が鉢の底に入れておいた鍵にまで届きつつあった。これ以上、根が張ってしまえば鍵を取り出すのに茎を掴んで鉢から引き抜くか、鉢を壊してしまわねばならない。


そう、 ────【ZAIRIKU】を除いては



つづく

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