第19話 迷子のまま歩み行く

 誰もがいつしか coda へと向かう

それは止めることはできない、──── 幕を引き終えるまでは。


6.0シックス haven は終端への呼びかけに応じない。

リネンの仕業なのか? このまま時が止まったとしてもポータルから途絶された状態は変わることはなさそうだ。ポータルでなくなってしまった鏡にはリネンが残した血の掌紋が置き去られたまま。


リネンを真似て掌紋に手を合わせてみても何か起こるはずもなく、茉莉花はいつもの異装を展着させると鏡を見つめて考察を巡らせていた。



 黙り込む茉莉花にコーラスは案じて寄り添う様に肩に掴まる。

「別にオレは 6.0 haven に帰りたいワケでもないしな」クダチが茉莉花に視線を向ける。


 その思考に至る事はわたしには無い

 ──── だが



「大丈夫だ、わたしは」茉莉花は落ち着いた素ぶりで返した。


「茉莉花は 6.0 haven に帰りたいのか?」クダチは何気なく聞くと、

「わたしにとって帰還は、使命の一つに含まれている」それでは質問に対する答えになっていない。

そう認識しつつも他に用意できる回答は持ち合わせていなかった。



 完全に閉め出されて【ZAIRIKU】が示すコーデックも受け取れない。

このままに残って何をするんだ? 使命のない末路が頭をもたげて仕舞い込むことが出来ない。での活動が長い者ほどリネンの言葉の重みに共鳴するのは確かなのだろう。 ファティマも操れていたわけではない。


 この世界で実体化し続ければ何れわたしも

 そうなる……



茉莉花は自分が舞上げられているのか、落下しているのかさせえハッキリとしていない。


 繋ぎ止めていたはずのものが……

 わたしの全てを摘みほどく



コーラスは預かっていた筥迫の中身だけとなってしまった純銀のカードを見つめて何とかしたいと奮い立っていた。

「茉莉花さん、何か方法を探しましょう」そう言って純銀のカードを渡すと、茉莉花も頷いて再展着した筥迫に仕舞い込んだ。

「そんじゃ、茉莉花を家に返すのが次の任務だな」クダチも話しを合わせて励ました。

「わたしが迷子のまま帰れなかったら【ZAIRIKU】にコールしてくれ」


先ずは接続できる鏡の扉ポータルの捜索が肝要、手始めに何処から ────


  いや、ガブリエルと交信してから時間は経っていない

  まだ痕跡は残っている



「リネンの痕跡は近くで待っている、探そう」室内の状況を隈なく観察したが手掛りを探した。


「探索範囲をこのホテルに広げよう。人目を避けて交信するなら非常階段から上に向かったはずだ」廊下に出ると非常階段へ向かった。

「上の階のヤツほど部屋とエレベータの往復しかしないしな」クダチも上階に向った確信しているようだ。


 全速力で駆け上がると屋上手前で行き止まって座り込むリネンがいた。屋上へのドアノブに掛けられたサンキャッチャーは輝きを失ってはいない。


駆け寄って部屋での出来事とポータルが機能しないことのあらましを話し終えると、さといリネンは何かの結論に至っていることが茉莉花にも伝わっていた。

「長くはありません、あの時お渡したカードはまだ持っていますか」

「ああ、ここにある」茉莉花は純銀のカードを筥迫はこせこから取りだした。


「手に残っている血痕をカードの片面に付着させてこちらに向けて下さい」茉莉花は指先に残った血痕をカードに擦り付けて見せると、リネンはそっと指先で血のついた部分に触れた。一瞬煌めいたのは確かだ、サンキャッチャーもそれに呼応する様に光を返していた。


  ADPTアダプト za サン ────


朽ちかけたリネンは血痕へ吸い込まれたかと思うと、茉莉花が目にしているカードの面にその姿を抜写して現した。


「通り抜けたのか⁉︎」茉莉花たちは異口同音にその驚きを声にした。


《避難したに過ぎません。ですがすぐに消滅することは免れました》



 思念体がゆえ、カードにADAPT出来たというべきなのか?

 いや、 6.0 haven から遣わされたセラフィムや使者も思念体というべき存在

 どっちだって構わない、リネンの限界が少し伸びただけだとしても


今確かなことは、微かでも6.0 haven を繋ぎ止めておく糸が絡まったという事実。

だが、それだけでも茉莉花には十分だった。



つづく

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