第17話 見返るには儚い小罪
ここにリネンがいる ────
ドレッサールームから 6.0 haven を錯覚させる無機質な空間が溢れ出している。床の存在の希薄さに足を取られるのではないかと注意深く進めていた歩みが止まる。
この源泉の中心で
「引き込まれないように隠れておけ」クダチとコーラスは茉莉花の左袖の中で丸まって身を隠した。
祈りを捧げている姿体は既にセラフィムを超越した存在感を
目の前にいるのは痕跡などではない実体化したリネン=ヒム
鏡の向こうからも見ているな、きっと ──── ガブリエル
「私はもう、終端への呼びかけすら応じてもらえません」
翼を失い、終端への呼びかけも届くことはなく
6.0 haven からマリシャスダンテの烙印を押され
その身は善行を失い悪行だけを留めるだけの暗愚
だが然し、未だ貴石の如く光が溢れだし宝玉を散りばめたかのようだ。
その
セラフィエル、リネン=ヒム
「わたしはカラム=シェリム、貴方に導かれ貴方を追ってここにきた」
「カラム=シェリムよ、私はここで潰える時を静かに過ごしています」
それは聞いた言葉だった。
「お前は潰えることのない存在だとガブリエル殿から聞いている」ファティマが戒めるように問いただす。
「ファティマ、それ以上は踏み入るな」そこに境界線があることを明示し、茉莉花もリネンに問いかける。
「報いと裁きが併存する術は見つけたのか」
「日没と同刻に日出を目にしては夜に鎮まる事を知らぬがまま。表裏ではなく円環する事で一つとしての真価が
リネンは微笑むとゆっくりと立ち上がりこちらを振り返った。
茉莉花は右袖を捲り上げると、ファティマも構えて体制を整える。
「全ては【ZAIRIKU】に委ねん」 滅するは幻黒 ────
ファティマが縮地の如く神速でリネンに詰め寄った。
「待つんだ‼︎」
境界線を超えてファティマは神速で突き抜けんばかりに刃を刺し込もうと切っ先を伸ばすと、リネンは制止するかの様に手のひらを向けた。
リネンは手のひらに刃を突き抜けさせると僅かに軌道を外側にそらしてそのままファティマの拳を握ると、直ぐさま後ろ手に締め上げ、左手の人差し指と親指の間をファティマの首筋に沿わせた。
茉莉花に背を向けていた筈のファティマは瞬時にして生殺与奪を握られ、こちらを向いている状態となってしまった。
実体化の弊害を受けていないとでもいうのか
6.0 haven 同様にリネンには一切の遅延がない
「この者の
「リネン、我らセラフィムが何を望むというのだ」
「かつての様にポータルの向こうではガブリエルがいるのでしょうか」
ガブリエルだと ────
目の前にいるリネンは終端への呼びかけはできない。ガブリエルと交信してここを知らせたのは痕跡となった方のリネン、焼滅の指示が【ZAIRIKU】から発せられている事を知らない。
ファティマに憑依して
そうはさせん
例えそうなってもマリシャスダンテはポータルを潜れない
──── DESTは目の前だが、
ガブリエルを呼び出してファティマを救う機を狙う。
「わかった、終端への呼びかけを行う。だからファティマは見逃せ」
コーラスに筥迫を掴ませ、クダチと共に背に隠れさせると茉莉花は展着を解いて終端への呼びかけをはじめた。
鏡が透けポータルが
「リネン、望み通りだ」茉莉花は2人の出方を窺い機を待った。
「貴方は役目を果たしました、後は好きになさい」
リネンはそう言うとファティマを締め上げていた手を離し、刃で貫かれて鮮血に染まった手をポータルに押しつけて掌紋を残した。
正確には憑依された者の鮮血だ。
ファティマは下を向いて立ち尽くしているその時だ、ガブリエルは確かにそう云った。
ただ唯一の果てに死せる者、
つづく
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