第16話 招かざる饗宴に着く
夜の途中で輝きが途切れた ────
片膝を立て壁にもたれてサンキャッチャーを眺めていたファティマが立ち上がり鏡に向かうと、展着を解いて終端への呼びかけをはじめた。
茉莉花も体を起こし座ったまま鏡に映るファティマの手の甲にある刻印を見つめた。(Charity never failed 『仁徳は絶えない』)
「伝令です。マリシャスダンテから交信がありました。ここから西南にある中華街の一画にあるホテル ケールススクローニ 614号室に鎮座しているとの事。高い確率で急襲が予想されます、どちらに居ても」
今までで最もにこやかなガブリエルを見た瞬間であったのは確かだ。
「私はどうすべきでしょう? ガブリエル殿」ファティマはここの防衛をすべきか、周辺探索の範囲内にあるホテルへ赴くべきか指示を仰ぐ。
ガブリエルの云う『どちらに居ても』というのはこの場所の事だろう。茉莉花は前のめりに両膝を抱えながらファティマに忠告をする。
「乗せられるな、ここで急襲を受けるかホテルで急襲されるかだけが選択肢ではない。閉所を避けて周辺探索すべきだ」
「マリシャスダンテをここで迎え討ちます」ファティマはそう答えた。
「それでは報告をお待ちしています」ガブリエルは姿を消した。
コーラスは一緒に来てくれると心強い、と考え直す様に働き掛ける。
「意固地になっても殺られるだけだぞ」クダチも引き入れるつもりだ。
中華街に向かうため茉莉花は立ち上がるとファティマに忠告した。
「刺し違えを恐れていてはその刃は届かないだろう」
ファティマは自分の指先を見つめ肩に力が入っている。
「お前に何が分かるというのだ‼︎」ファティマが指先を向けた。
「オイ、やめろオマエ等」
「2人ともやめて下さい」
「ガブリエルが云う逃避は、リネンに対してその御業は相性が悪いからだ、ファティマ」
ファティマは眼を見開いて茉莉花を待ち構えていた。
「自己犠牲による相打ちなど止めておけ、それだけだ」
「茉莉花、どっちが正解なんだ」クダチがファティマの行き先を聞く。
ここはリネンも知った場所
ここに戻ってくる可能性が高いのは事実
だがホテルはどうだろうか
ファティマがここでリネンと遭遇しても恐らく刃を刺し込めはしない、かといって周辺探索に向かわせる様に説くのも難しい上、時間もない。茉莉花の解答は決まっていた。
「援護してくれ、ホテル ケールススクローニ へ向かおう」
コーラスはファティマの周りを飛んで歓迎している。
速やかに西南にある中華街へと進行を開始したのは、まだ夜の賑わいが盛んな時刻。ここで強襲されれば面倒この上ない。
「コーラス、探索しなくても構わないからリネンが気づくように周囲に向けてエフェクトを放っておいてくれないか」
闇雲でも牽制しておいた方が邪魔板になってリネンも真っ直ぐに強襲し辛い筈。
側道に車やタクシーが連ねて停車し混雑する繁華街の歩道を突き進む。停車中の車の影や人混み、店の出入口の開閉、死角が明からさまに多く目につく。
「ここで襲ってこないのか?」さすがにファティマも聞く。
「エフェクトに気づいて姿を現してくれた方が対象しやすい」
「待ち受けられる方が厄介ということか」ファティマは頷いた。
ほどなくして、何事もなくホテル前に到着していた。
すぐ近くのエレベーターが下にくるタイミングを見計らいながら、ロビーにある喫茶店を利用する素振りでゆっくりと近づく。
ロビーの受付で財布を探して身体をまさぐっている男を目にした茉莉花は、クダチに視線で合図する。男は財布が無い焦りと、身体をまさぐりまくる奇抜な動きに周囲も注目をしはじめ、流石にガードマンも声を掛けに近寄っていく始末。
不意に男の動きがピタリと止まり『財布、ありました』というと共にフロント受付の女性も笑顔で手を叩く仕草を見せて漸くチェックイン。
──── エレベーターのインジケーターは6階を点灯させる。
茉莉花たちが警戒してエレベーターを出ると、614号室の表示プレートを辿り通路奥へと誘い込まれていく。そこには部屋番号など無くとも、それがDESTだと告げる空気が扉の下から漏れ出している。
ファティマの一刀が扉の施錠部分だけを残して切り抜いた。
中に踏み入むと透き通った空間が足元を満たしていて、床を透き通すのではないかと足下を踏み固めるようにラグジュアリーな室内へ歩みを進める。
ここにいることは感知せずとも明らだ。
つづく
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