第8話 輝石が降り止まない夜
伝令を受けた
「知ってるのか? そのリネン=ヒムとかいうヤツ」
「わたしより高位のセラフィムで、名はよく耳にする」
「茉莉花みたいにぶっきらぼうなヤツじゃなきゃいいな」
「崇高で美しいと聞く、わたしと異なるのは確かだ」
「ムッとしたのか? それか茉莉花でも怖いヤツなのか?」
「それは会えば解ることだ」 茉莉花たちは先を急いだ。
数時間後、DEST付近に到着すると、そこにはあからさまに周囲と様相が異なる雑居ビルがある。入り口付近には人々が彷徨いている。
ビルの脇にぽっかりと空いた2階への階段は氷塊の裂け目というべきか、そこはかとない凛然とした
「あの建物だ、中にいる」茉莉花はそこにセラフィムを感知していた。
1階は店舗になっていたのだろう名残がみえる。シャッターは暫く下ろされたままだったのだろう、雨に晒らされ、剥がされた文字の痕から辛うじて読み取れるかつての専門店の名。その直ぐ横にある2階への階段へ歩み寄る。
近づくと
「ここは立入禁止だ」異質な人の壁が茉莉花たちを阻む。
モジュレーション系のエフェクトが掛けられている。ここに居るのはそう、人ではない 6.0 havenの使者達だ。
「道を開けるんだ。わたしは、」
そう言いかけた瞬間、犬が襲いかかってきた。クダチが瞬時に突進してくる犬にループをかけると、噛みつくことも出来ずそのまま走り去る。
即断の茉莉花は右腕の袖を捲り上げると、一閃の瞬きから空間が歪むほどの熾火をその手に纏う。
滅するは
熾火の
「おやめください セラフィムよ」無垢な声が響く。
「わたしはカラム=シェリム、ガブリエルの伝令を受けてここに来た」
「どうか熾火を鎮めて上にいらしてください」
クダチが袖口から顔を出して言う。
「マズいんじゃないか?」
「上にあがってから判断する」と茉莉花
「上にあがってマズかったら」とクダチ
使者の1人が頭を下げて、その手は階段を指し示している。
「ここに残って私が戻ってこなければ判断してくれ」
「崇高で美しいって噂のヤツを見ずにか?」
茉莉花の顔を見たクダチはそう言うしかなかった。
勇猛でも
部屋には何もなく、床の上に布だけ敷いてリネン=ヒムが横たわっていた。その身は朽ちつつも天を仰ぐその容貌は美しく、時が止まった瞬間を眺めているかの様に生けるものとの一線を画している。
「カラム=シェリムよ、私はここで潰える時を静かに過ごしています」
「貴方にいったい何が」
私は幾多もの至然体を改修し、時に滅して【ZAIRIKU】へ叡智の糧とし捧げ、信仰の体系を堅持してきました。
ですが、私が滅したのは使者だけではありません
この世界に住まう人の数は年々減少し、今では使者の数は67%を超える状況。人の造った文明を維持するためにこの低次で日々活動しています。今となっては使者がいなければ文明は崩壊し、人の滅亡を加速させることでしょう。
しかし、人は争いで人を殺め、使者を殺め、自分までも殺めます
ある時、使者を殺めた人を目にしました。
使者を死滅させまいと急いで幼生体を抜き出しました。しかしその者は私をも刃物で刺すと押し倒して馬乗りになり衣服を裂き、気が付けば私はその者の心の臓を掴み出していました ────
「その後、私は人が持つウイルスに侵された事に気づき、すぐさま熾火でこの身を燃やしてウイルスは消沈させはしましたが失ったものも多く、暫くすればこの身は潰えることでしょう」
茉莉花は リネン=ヒム が見つめる部屋の端に吊るされたステンドグラスの飾りがついたサンキャッチャーに目をやった。
さながら氷晶が零れだして、その煌めきを留めていられないかの様に光の粒が反射してサンキャッチャーは窓から溢れた街のネオンを部屋に導き入れていた。その中に一際、眩い光を集めている雫型のオーナメントがその表面に室内を映し込んでいた。
つづく
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