第7話 示されたDEST
受付の女性が明るく軽やかに茉莉花の接客につく。
クダチは茉莉花の足元から店内の様子を窺いつつ、侵入し奥へと姿を消した。
「予約の仕方が分からなくて聞きにきたのだが」
「失礼しました、そうしましたらこちらのQRコードを……」
クダチは店内を見回す
小部屋3室、スタッフルームに化粧室、小部屋で1人が施術中 ────
受付に1人、小部屋に店員と客の2人、スタッフルームに1人。
今は4人居る、化粧室の鏡は横に大きいタイプだ。
偵察を終えたクダチは茉莉花の足元に密かに戻ってきた。
茉莉花はカウンターの陰に手を下ろし、袖口にクダチを誘導する。
「……、そうしましたら、またのご来店をお待ちしております」
「時間を取らせてすまない、ありがとう」そう言うと茉莉花は店員からチラシを受け取り店を出た。
窓の外を眺めてエレベーターが来るのを待っていた。
「個室が3部屋、あとはスタッフルームに化粧室だ。化粧室の鏡は横に大きいヤツだった。茉莉花の身長なら壁際まで下がれば全身は映るだろうな」
「受付のオンナを除けばスタッフルームに1名居るだけだ、どうするのか聞きたいのだが」
クダチは茉莉花の真似をしながら話した。
「ポータルを潜る事は出来ないが交信と展着は可能だな」
茉莉花は続ける
「今から3時間後に2名で45分コースを予約している客がいる」
「じゃあその2人が入店したら受付のオンナをループさせる」
クダチも作戦を確認する様に応えた。
「あの男性だが」茉莉花がそう言いかけるとクダチは首を振る。
「あと数時間は持つ筈だが、アイツで確証を得たい」二人は窓を見下ろした。
「それでは一度、下のフロアに降りてこの建物を確認しよう」
茉莉花たちは、あの男が伝説のナンパ師になろうとは知る由もなかった。
そして その時は訪れた ────
茉莉花はエステの受付から見えない位置で影を潜めると、2人の客が入店する様子を観察していたクダチから声がかかる。
「2人が別々の個室に入ったぞ茉莉花、ループさせる」
速やかに店内の化粧室に向かい、茉莉花が展着を解くとクダチは化粧室の前を見張った。茉莉花が自身を映す鏡を通して 6.0 haven に終端への呼びかけをはじめた。
徐々にポータルが透けはじめるといつもの声が聞こえる筈だ。
だがその前に茉莉花が鏡に詰め寄る。
「ガブリエル、近くに人が居るから静かに話してくれ」
「伝令です。接続状況は改善しつつあります。カラム=シェリム、貴方へは次の
「わかった、望みは何だ」
「
ガブリエルの話しは終わったようだ。
「わかった、こちらも以上だ」
茉莉花はそう言うと、全身が鏡に映り込むように壁際まで下がって異装の展着を済ませ、クダチに店からの撤収を目配せした。何事もなく店を出てエレベーターに乗り込むと1階へと向った。
「DEST?とかって言ってたが何だ?」
「使命を受けたセラフィムの仕向地だと捉えてくれ」
クダチは配属先みたいなものだと理解し、ループを解除した。
「そこの駅裏に4階建の本屋がある、その3階フロアに向かう」
「6.0 haven からの使者がいると言ってたな?」クダチが聞いた。
「クダチの同業者かもな、そこに行けば次の状況へ
茉莉花の口調は清々しく迷いを抱いている様子は微塵もない。
十数分後、目的のフロアに到着した。
そのフロアには壁一面が鏡となっている箇所がある。
「万引き防止用ミラー、ここで展着を解除すると別の罪で捕まるな」
「ああ、潜ってくるのは容易だが交信や帰還には向かないのは確かだ」
鏡と向き合っている茉莉花に清掃員の格好をした男が側に近寄って来た。
「ここに向かいセラフィム・リネン=ヒム と合流せよとの事です」
そう言うと売場にある地図を見せてその場所を指し示した。
「わかった、貴方もくるのか?」
「私はここでループの役割を指示されていますので……」
「オレの代わりか? それに何だ、その格好」クダチが口割って入ると茉莉花はすぐさま別れを告げて移動をはじめた。
「アイツ、オレを
「ああ、異端視するのは当然だ」
「オマエ、平気でショックな事を言うんだな」
「悪かったな、しかし改修は為された」
「オレはお役御免なのか?」
「6.0 haven へ共に戻るにはクダチの力が必要だ」
「そう言うとオレが許すと分かってて言っただろ?」
茉莉花は翔ぶような軽やさで歩道を駆け抜け
つづく
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