第3話  ──この試合で俺は、俺を変えてみせる。

「あらら、初対面の人を二人きりにさせるとは中々悪だねえ、彼女」

「そうですね、ミヒャエル・ピッピさん」

「いやいや、エンデ。そんな情けない名前してない」


 そんな他愛ない雑談をしているうちに、画面のカウントダウンが始まった。10、9、8……音が鳴るたびに、部屋の空気がじわじわと張り詰めていく。そろそろ始まるっぽいな。


 ──と、そのタイミングで、みどりが再び現れた。

 いや、現れるというより、まるでヒーローのように「ジャーン!」と効果音が付きそうな勢いで舞い戻ってきた。


「お待たせー! 水汲んできた!」

「井戸水かな??」


 俺がすかさずツッコむと、ミヒャエルも続けて肩を揺らしながら笑う。


「ほんとに、水汲むってフレーズがすでに面白いんだけど」

「なんで!? 普通でしょ!」

 みどりが頬を膨らませながら反論する姿に、どこか和む。


 画面のカウントダウンがいよいよゼロになる。俺は深呼吸をして、ゲームの準備を整えた。


「それじゃ、よろしくお願いします」

 俺が落ち着いた声で挨拶すると、ミヒャエルがにやりと笑って返す。


「よろしく」

 その声にはどっしりとした落ち着きがありながらも、背後に燃えるような闘志を感じた。


「頑張っていこ♪」

 みどりが楽しげに言葉を添える。その声はどこまでも明るく、全ての緊張を一瞬で和らげる魔法のようだった。


 ──画面のカウントがゼロになる。

 キーボードに置いた指先がじわりと汗ばむのを感じる。


 ──この試合で俺は、俺を変えてみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る