私立きらきら学園VTuber部
春休み
私の頭の蝋に火を点けて
「んー……どうしよっかなぁー……」
最近お気に入りのIncubusのMorning viewを聴き終えて、私は悩んでいた。
とても退屈極まりないのだ。
好きな娯楽はうんとあるが、それでも尚、私の脳みそ君は更なる愉しみを欲していた。
何かが足りない……。
中学を楽しく
それが私だからだ。
それなのに、現在此の時、私は何かを熱望している。不安に趣の似た憂慮を抱えそれに危惧している。Cave inのBrain candleの歌詞の様だ。
私の頭の蝋に火を点ける導火線を熱烈に欲しているのだ!
「んんんーー……どうしよっかなあぁぁっぁーーーー」
もう眠るか?
「……新しい更新のあるまったり解説でも見よーっと」
厚い激励で以って故郷から送り出されたのに、全く戦果を挙げられなかった古の兵士の様な感情でトゥーチューブを開くと、TOPページに私の知らないVTuberが表示されていた。
同説は165とそんな多くは無いから私へのお薦めだろう。なんとはなしにそれをクリック。
カチッ!
「で、井戸の中に2週間も居るとね~、もうこの世に私は居ないっていうか~、でも居なくても確かにこの世に存在してるっていうか~、エヘヘへ、あっ! 来たよ!」
〝何言ってるん?〟
〝来た!?〟
〝おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〟
〝次の獲物だ!〟
〝頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!!!!!!〟
どこかの山奥。荒れ果てた小屋。前庭に古びた井戸。そこに
「ここがそうなの?」
「そう。2人の女学生がこの小屋で仲良く首吊したって噂の…。で、あそこが例の井戸! あの井戸からは夜な夜な陰鬱なメンヘラ幽霊が『彼氏になって~、彼氏になって~』って恨めしそうに出てくるんだと……」
「え? そのメンヘラ幽霊なんか陰キャすぎない!? てか、女学生らはどこいったの!?」
「あまりにも彼氏ができなくて世を儚んで自殺したんだと。一度見ると10年間は付き纏われるみたいだぜ」
「絶妙にしつこいね! ぜったい陰キャじゃん、そのメンヘラ幽霊!!」
ふと井戸の方から声。
「……すぞ」
「え!? 今なにか聞こえなかった!?」
「私も聞こえた! クラスに居た暗鬱なオーラを纏った明らかに陽キャを妬んでるのにその思いをおくびにも出さない陰キャの心の声みたいな気持ち悪い声!!! たつくん、私怖いよ~」
「大丈夫。かなみは俺が必ず守るから! おい、メンヘラ幽霊! 彼氏ができないくらいで自殺とか、お前の先祖様もさぞ呆れてるだろう! そのうじうじな魂じゃ阿弥陀様にも『この魂、臭い』てゴミ箱に鼻かんだティッシュを捨てるかのようにぽいってされたんだろ! そうして捨てられた先がその井戸ってわけだ! お前、極楽浄土から門前払いを食らってるじゃねーか! てゆーか、お前が彼氏できないのって、お前の顔があまりにもぶさ……」
「てめぇら、ぼこすぞ!!!!」
不意にカップルの背後から声。白装束に頭には五徳を冠りそこに火の付いた蝋燭を3本指し、手には金槌、眼は黒目が見えぬほど白目にひん剥いたおどろおどろしい形相の女。怯えるカップルの頭上より徐に持ち上げた金槌を一気に振り落とそうとす動作。
「「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
カップルは泡を吹いて気絶した!
〝やったぞ!!!!!!〟
〝wwwwwwwwwwwwwwwwww〟
〝これで累計25人目!〟
〝うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〟
〝今回滅茶苦茶恨みこもってたぞ!〟
〝いいぞ! もっとやろう!!〟
配信タイトルは【心霊スポットの井戸に2周間潜み、肝試しに来る奴を脅しに脅すぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!――グランドフィナーレ――】
「いや、もう無理だし! 今日最終日だし!!」
配信画面には泡を吹いて倒れてるカップル。画面の右下に申し訳程度に置かれてるVTuberアバター。最終日に相応しくコメントが異様な熱気で盛り上がってる。
正直、驚いた。これくらいの同接だと大抵内輪向けのまったり配信の方が多い。私も今夜はそれを求めてこの配信を開いた。それなのに、意に反して、めちゃくちゃ面白かった。
思ってたものと違ったものなのに、面白い。それって、面白さが担保されてる配信より心に残るよね!
「これだ!」
私は部屋を飛び出し、階段を降りて、居間に居た両親に向かって、
「私、高校ではVTuberやるね!!!」
そう宣言して、またすぐに自室に向かった。
「……VTuberって、何だ?」
「さぁ? それよりあの子、高校生になったらもう少し大人になってくれるといいんだけど……」
♢
部屋に戻った私は先程の私とは違っていた。頭の蝋に間違いなく火が灯っていた。未だ盛り上がりの衰えぬ先の配信を映してるPCモニタをぼーっと見ながら、燃えていた。
私に足らなかったもの。私の頭の蝋燭に火を灯してくれるもの。それは、ずっと外からの熱だと思っていた。でも、そうじゃなかった。私の蝋燭は、私で点火するものだったんだ! 自らに火を点けるのがこんなにも心地良いものだと、私は知らなかった。
春の夜空が瞬く中、私は春休みが明けるのをもう待ち侘びていた。
「高校生活、楽しみ!」
そして、私は未来への期待にしづ心なくその夜を明かした。
私立きらきら学園VTuber部 春休み @haruyasumi18
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