煤の神様

 直感的に、随分悪くなってきたな、と思いました。


「煤ですか」


 それはだいぶと昔に、自分らの時代に始まったしようのない遊びのはずでしたから。―最初は本当に簡単な話でした。嫌いな奴のところに、セミの抜け殻を入れた封筒を毎日送るんです。家でもいいですし、学校の上履き入れでもいいです。それは時々形を変えて、蛇の抜け殻になったり、蛆になったりしてたようですけど、大まかなところは一緒です。


「そうです。それも何か―生き物を燃やした後のものがいいとか、そういう恐ろしい話も出ているそうです」


 そうでしたか、と応えました。往々にしてこういった怪談の類は、確かにどこかで話がねじ曲がってしまうものです。例えば時代にそぐわない公衆電話を用いた怪談が、時代を経て携帯やスマートフォンを用いて語られるように。あるいはより恐ろしくするために、怪異の特徴を増やしてみたり。


「それで、既に実害が出ている部分も?」


 あるいは、特定の怪談に対抗するための怪談が生まれたり。


「ええ、どうやらこの怪談のために野良猫を殺して火をつけた児童がいるようでして……」


 煤を入れた封筒を持ち歩くように、可能であれば毎日煤は新しいものに変えるように。そうすれば、あの怪異から逃れられるから。


「……それはなんとも、痛ましい話です。当該児童の対処はどのように」


 それらは、私たちが子どもの頃に浴びせられたものよりもずっと、どこか邪悪になっている。まるで大した謂れも持たずに、誰かの手によって自在勝手に歪められたみたいに。


「それが、その児童は今、もうまともに話せる状態でもないようでして」


「…………そうですか」


 周囲を大勢巻きこんで、もっとずっと、悪くなろうとしてるみたいに。

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