蛆の神様

『なにそれ、趣味悪いなぁ』


 通話越しに憤る彼女の声は、それでもどこかおっとりとしている。私はそのどこかいつも通りな彼女の様子に、内心安堵した。日常の帰ってきたような肌触りだったから。


「まあ、でも意味わかんないDM来るだけだからな~、その、なんか全裸の画像とかが来てるわけでもないし」


 言いながら、PC画面を操作し、とあるSNSを立ち上げる。


『ブロックは? したんだっけか』


 そうすると、また、新着DMが一件届いているという旨の通知が目に入った。せっかく少しげんなりする。


「うん、したんだけどね……また知らない人から一件DM来てるみたい」


 開かずにブロックしたっていいのだけれど、ほんとうに私に用事のある人からのDMだったら困ってしまうわけで、結局私はその通知をクリックした。


「うわ……」


 もはや見飽きたような画面だ。白く、いやな光に濡れた虫。一匹の蛆虫が、黒い布の敷かれた台の上にいる画像。添えられている「今日の分です」の一言。ここ一週間で届いたものと全く同じ。―いや、画像だけは毎回ちょっと違っているみたいだけど。


『また来たの?』


 うん、と力なく返しながら、私はそのDMを送ってきたアカウントをブロックする。この手つきも慣れたものだ。なにも嬉しいことではないけれど。


「なんだろうね、毎回、今日の分ですっていって送られてくるんだよね。意味わかんない」


 いよいよ苛立って、私はブラウザを閉じ、ゲームを起動する。


「ごめん変な話聞かせて、今起動したし一緒にマルチ潜ろ~」


 大体仕事で疲れて帰ってきてるっていうのに、こんなしょうもない嫌がらせに疲弊していてはゲームも楽しめない。気を切り替えてコントローラーを握り、彼女に声を掛ける。


『おっけ~! 今日はどこ行く? どこでも全然付き合うよ!』


「ほんと!? ありがと、行きたいところあってさ~、早くレベル追い付きたいな~」


 マルチへ接続する数秒待つ。同じ趣味で繋がっている彼女くらいが救いなモンだと―顔も本名も知らないけれど―ぼんやり思う。


(なんて、ちょっと宗教染みてるか?)

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