開店1周年前日 8

「ねえ。村上さんの連絡先、分かる?」


「知っているよ」


「それなら、ちょっと電話してみない? 今の様子、ちょっと興味あるし、あなたも1周年目の挨拶ということで理由が付くでしょう。私はその村上さんの今を知りたいわ」


 美津子は興味津々という目で私を見た。私も村上の近況を知りたかったし、このタイミングで電話することにした。


 村上の電話番号はスマホに記憶させてある。私はスマホを取りに行こうとしたが、美津子はここで電話してほしいと言った。リアルな話を聞きたいということだろう。私はその気持ちを理解し、スマホを取り、再びリビングに戻ってきた。スマホの電話帳を検索し、村上に電話した。


 出るまではちょっと時間がかかり、切ろうとした時に村上が出た。


「・・・もしもし、村上さんですか、雨宮です」


「あっ、しばらくです」


 村上の声は今一つ落ち着いた感じではなかった。


「村上さん、今お忙しかったですか? もしそうでしたら掛け直します」


 私はその様子から電話を切ったほうが良いと思った。


「ごめんなさい。今、施術中ですので、私のほうから掛け直します。宜しいでしょうか?」


 村上は恐縮するような感じで言った。


「申し訳ありません。私のほうはいつでも大丈夫ですので、お待ちしています」


「では、30分後くらいになると思いますが、済みません」


 そう言って村上は電話を切った。


「村上さん、忙しそうね」


 美津子が言った。


「そうだね。悪い時に電話しちゃったね。後で謝らなくちゃ」


 私は頭をかきながら言った。その状態を置き換えて考えた場合、仕事中のプライベートな電話はクライアントの方に迷惑をかけることは理解している。その悪いタイミングでの電話だったからそう思うのは当然だ。


「ごめんなさい。私が余計なことを言ったばっかりに・・・」


 美津子は申し訳なさそうに私に謝った。


「いいよ、電話する時、相手の様子は分からないわけだから、こういうこともあるよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る