第2話 田中の爪先2

 待ち合わせ場所はカフェだった。

 時間も時間。放課後になると、学生も多くなる。


 田中は普段からカフェに来るようなタイプじゃない。

 そのせいか一番奥の席で小さく固まり、カフェオレを飲んでいた。


「本当に来るのか?」


 佐藤から教えて貰った魔法少女のサイト。

 一応連絡はしてみたものの、本当に来るとは思えない。

 きっと胡散臭い宗教的なノリなんだろう。

 そう思いながらティーカツプを手にすると、突然少女に声を掛けられた。


「田中さんですか?」

「(ぶっ!)」


 まさか本当に来たのか?

 急いで顔を上げると、そこに居たのは同い年くらい少女。

 しかしこの辺りでは見かけない制服を着ており、田中は唖然とする。


「あ、ああ。そうだけど」

「よかったです。初めまして、ご連絡をいただいた魔法少女……の代理の魔法少女でツキカと言います」


 少女の名前はツキカ。

 まさかの魔法少女に代理がいるとは思わなかった。

 それも相まってか余計に胡散臭くなると、田中はジト目になった。


「なぁ、本当に魔法少女なのか?」

「はい、信じられませんよね?」

「そうだな」


 当然の疑問を抱いていた。

 しかしツキカは気にしない。

 何せ魔法少女なんて不思議な存在、信じられる筈もなかった。


「では、少しだけお見せしますね」

「って、なにを……消えて!?」


 ツキカは信じて貰うために、少しだけ魔法を使った。

 月の光を操る魔法少女のツキカは月が出ていない間も魔法が使える。

 一体何が月の光なのかは分からないが、眩い光を迸らせると、目の前から瞬時に消える。


「これで信じては貰えましたか?」

「……はぁ?」


 流石に信じるとか信じないとかの話じゃなくなった。

 突然目の前から消えたと思ったら、突然現れた。

 そんなおかしな話があってたまるか。

 そう思ったのだが、ツキカは田中の問いに答える気はない。


「それで一体なにがあったんですか?」

「あー、まあ大したことじゃないんだけどよ」


 田中は何が起きたのか、今までのことを口にする。

 一体いつから爪先を汚したのか。

 そして爪先だけではなく、他の陸上部員も怪我をしていることとか。

 近頃起きている身の回りの被害を不幸のように語った。


 するとツキカは真剣に聞いていた。

 こんなバカバカしい話を最後まで一切目を逸らさなずに耳も傾ける。


「なるほど。足の怪我を……」

「まあ、ただの偶然だけどさ!」


 田中は信じたくなかった。

 自分の口で初対面の相手に話し程度にはくだらない。

 そのせいか、戯言だなと田中は思ってしまった。


「きっと、偶然が重なっただけで」

「前にも同じようなことを経験したことがあります」

「経験? なに言ってんだよ」


 田中はポカンとしてしまった。

 こんな話が他にあるのか?

 流石に笑ってしまったが、そんな田中を前に、ツキカは席を立ち上がる。


「分かりました。それではすぐに行きましょう」

「はっ、行くって何処にだよ?」


 ツキカは素早く立ち上がった。

 事件の究明のために行動する姿勢は素晴らしい。

 けれど田中は付いて行けなかった。


「決まっています。貴方の学校の陸上部の部室です」

「部室? なんでそんな所に」


 田中自身理解できなかった。

 テンパっているせいか、それとも魔法少女自体に半信半疑なせいだろうか?

 どちらにせよ、信用は成らないのは事実だ。


「怪我をされているのは、全員陸上部の部員だけですよね。つまりは、他の部にはなにも影響が出ていないと言うことです」

「そ、それのなにが。結局偶然だろ?」


 田中は信じたくなかった。

 そんなオカルト的なことがあっていい訳が無かった。

 

「偶然だといいのですが、それが偶然じゃなかった時は不気味ですよね」

「こ、怖いこと言うなよ」


 けれど流石に怖くなる。

 恐怖心が事実と重なり合い、ゾクリと背筋が凍る。


「その調査をさせてください。お願いします、田中さん」

「……分かったよ」

「本当ですか? ありがとうございます」


 田中は魔法少女を信用してはいない。

 結局は御伽噺だと思っている。

 けれどもしも事実なら。確証が持てないせいか、田中はツキカを頼ることにした。

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