第3話 雪解

夜が迫る中、二人は山小屋を目指して歩き続けた。リナの足取りはますます鈍くなり、悠も限界が近いことを感じていた。地図上では近くに避難小屋があるはずだったが、吹雪で目印が見つからない。


「……ごめんなさい、足手まといで」


リナが突然呟いた。肩を落とし、下を向いているその姿は、寒さ以上に心の重荷に押しつぶされているように見えた。


「謝るな。お前のせいじゃない」


悠は短く言い放ち、彼女の手を強く握り直した。その瞬間、リナの瞳に小さな光が灯るのが分かった。たとえ冷たい手でも、その握力が彼女にとってどれだけの支えになっているのか、悠にも感じられた。


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ようやく山小屋を見つけた時、夜の帳がすっかり降りていた。小屋の扉を開けると、古びた木の香りが鼻をかすめる。中には薪が少しだけ積まれており、悠はその場で火を起こした。


火の暖かさが空間を満たし、リナの頬が少しだけ赤みを帯びる。


「温かい……」


リナが呟く。その声には安堵が滲んでいた。悠は自分のバックパックから乾パンを取り出し、リナに差し出した。


「これで腹を満たせ」


「ありがとう……」


二人は黙々と乾パンをかじり、火の暖かさに身を寄せた。その沈黙は、言葉よりも多くを語っていた。悠にとって、こんな静かな共有の時間は久しぶりだった。


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夜が更けると、リナは疲れ果てて眠りに落ちた。その小さな寝息を聞きながら、悠は一人、火を見つめていた。炎の揺らぎが彼の心にも影響を与えるように思えた。


「……どうして、ここに来てしまったんだろうな」


彼は自分自身に問いかける。リナとの出会いが、彼の内面を変えつつあることを感じていた。助けを求める声に手を差し伸べた瞬間から、彼の中で何かが動き出していた。


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翌朝、吹雪が和らいだ山道を再び歩き始めた二人。夜が明けると、景色は一変していた。雪は一面に広がり、その白さが太陽の光を反射して、眩しいほどに輝いていた。


「……すごいね、こんなに綺麗だなんて」


リナが立ち止まり、キラキラと輝く雪原を見つめていた。その無邪気な表情は、寒さや恐怖を一時的に忘れさせる力を持っていた。


「こんなもん、ただの雪だ」


悠はそっけなく言い放ちながらも、目の端でリナを見ていた。彼女がどれだけこの景色に感動しているのか、それがどれほど彼女の心を軽くしているのかを、彼なりに理解していた。

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