第3話 ナメクジ

 次に日から休み時間に、〈さおり〉のクラスに行き、僕は大声で〈さおり〉を糾弾きゅうだんし続けた。


 「〈稲子ちゃん〉を虐めるのは止めろ」


 「虐めてなんかいないわ」


 「嘘をくな」


 「変なことを言うと、許さないわよ」


 〈さおり〉は真っ赤な顔になって、僕をにらんでいるけど何も怖くない。

 元だけど高校三年の男子が、中学一年の女子が怖いはずがない。


 「〈稲子ちゃん〉が可哀かわいそうだろう。 どうして虐めるんだ」


 「虐めていないって言っているでしょう。 言いがかりは止めてよね」


 「いいや、虐めを止めるまで、止めないぞ」


 〈さおり〉のクラス中に聞こえる大きな声で、言ってやったから、クラス全員がこっちを見ている。

 〈さおり〉も困ったって感じだ、もっと困れば良いんだ。


 「こんなことをして、ただでませないよ」


 「どうするんだ」


 「うぅ、…… 」


 具体的に何をするつもりなんだろう、僕を虐めるのか、どうやって。


 僕のクラスに来て意地悪な事を言うのか、それならさらに糾弾してやろう。

 机に落書きをして上履きを隠すのか、糾弾されている状態でするのはリスクがあり過ぎだろう。

 僕に現場を押さえられたら、致命的じゃないか。


 でも僕は、〈さおり〉がバカだと予想がついていたので、作戦を立てる事にした。

 動かぬ証拠を動画に撮ってやるっていう作戦だ、ははっ、僕がやられた事だな。


 だけど僕一人じゃ効率が悪いので、協力者を集める事にした、二人は必要だと思う。


 頼んだのは同級生の〈はると〉ってヤツだ、どうも学校で女子を盗撮しているらしい、とてもスケベでイカレた野郎だ。

 だけど動画は撮り慣れているため、うってつけの人材だと思う。


 もう一人の協力者は、〈さおり〉と同じクラスのヤツで、「言うことを聞かないとひどい目にあわせる」とおどして得た協力者だ。

 〈さおり〉のクラスに頼めるヤツがいないんだ。


 「ナメクジが沢山いる場所を知っているか。 コンクリートの壁にいるんだぞ。 フランス人は食べるらしいな。 君も食べたいだろう」


 フランス人が食べるのは、カタツムリのエスカルゴだけど、同じようなものだろう。


 コイツの名前は〈りょうた〉で、カタツムリが死ぬほど苦手らしい、でもナメクジはそうでも無いかも知れないな。

 ナメクジの方がインパクトがあると思って、大量に捕獲してきたけど、どうだったかな。


 「えぇー、まさかそんな酷い事はしないよね。 僕は死んでしまうよ」


 どうやらナメクジは、カタツムリ以上に効果バツグンらしい。


 可能性を教えてやっただけなのに、男のくせに、グズグとズ泣き出しやがって、嫌になるな。


 「言うことを聞いたら、何もしないよ。 これはな、虐めっ子に制裁を加える正義の行いなんだ」


 「うぅ、ナメクジを近づけないで下さい。 〈さおりさん〉が授業をサボったら、運動場に合図あいずを送るだけで良いのなら、協力するから」


 しないだろうと少しだけ思っていたけど、やっぱり〈さおり〉はバカらしい。

 僕の机に落書きをして、上履きを隠しやがったんだ。


 〈さおり〉達の虐めグループは、その間の授業を予想通りサボっていやがった、〈りょうた〉の合図で僕と〈はると〉は教室へ急行した。

 扉の隙間すきまから、〈さおり〉達の行動をバッチリと、撮影する事が出来たぞ。


 〈さおり〉に虐められている事を、スクールカウンセラーに相談してやった。

 先生は多忙だから無視されるけど、カウンセラーはこれが仕事のため、的確に対応してくれる。


 バカな〈さおり〉と、倍はバカな親が、学校へ乗り込んで「冤罪えんざいだ」とさわいでいたが、証拠の動画を提出していたから、言葉を失っていたらしい。


 あははっ、爆笑させてくれるよ。


 学年中を誘って、泣きながら校門を出ていく〈さおり〉を笑顔で見送ってあげた、手を振っていた女子もいたな。

 他の子も皆、良い表情で笑っていたぞ、〈さおり〉は皆から嫌われていたんだな。


 だけど、〈稲子ちゃん〉だけは僕の顔をずっと見ていたな、そんなに見詰められたられてしまうじゃないか。


ヨガ教室から帰ろうとしたら、〈稲子ちゃん〉に事務室へ来てくれと言われた。


 「本当にありがとう。 私は〈町田君〉に救われたよ。 これはそのお礼なんだ」


 〈稲子ちゃん〉は何回も練習したんだろう、一気にお礼の言葉をべてきた。

 顔は真っ赤で、お菓子の袋を持つ手は、プルプルと震えていたな。


 たとえ手作りのチョコであっても、僕はとうてい満足出来ないぞ。


 「助けてあげたんだよ。お菓子なんかじゃ、全くり合わないな」


 「えっ、でも、私にはこれしか。 そうだ、お小遣こづかいならあげるわ」


 「それよりも、僕は〈稲子ちゃん〉にキスをしたいんだ。 させてよ」


 「あっ、そんなの、ダメ。 恥ずかしくて、私、キュっとなって死んじゃうよ」


 〈稲子ちゃん〉はもっと真っ赤に染まって、モジモジとしている、だけど立ったままで逃げようとはしない。


 僕はそれを了解だと解釈かいしゃくし、〈稲子ちゃん〉の頭をガッとつかまえた。

 そして驚愕きょうがくしている〈稲子ちゃん〉の唇に、キスを強引にしてやった。


 〈稲子ちゃん〉は体を震わせて、今にも泣き出しそうだ、でも泣かないのは〈稲子ちゃん〉が我慢強いからだろう。


 「お礼をありがとう。 〈稲子ちゃん〉の唇は、すごく柔らかかったよ」


 「知らない」


 〈稲子ちゃん〉は小さな声で怒っているけど、人を呼ぶような素振りは見せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る