第9話 連戦

 あー、何かどっと疲れたな。どこかで落ち着きたい。確か、この先に広い公園があったな。

 暫く歩いて、公園の敷地に到着する。現実で何度か来た事のある公園なのだが、何だか違和感を感じる。

 あれ?よくは覚えてないけど、何か景色が違うような……。

 すると、「ボム、ボム」とボールが地面を弾む音と人の声が聞こえてくるので、音の方へ向かう。

 あっ、バスケットコートがある。

 確か、元々公園の中にバスケットゴールだけ設置されていたが、立派なバスケットコートに変貌している。

 そこで、バスケをしているのは、クラスのバスケ部、山下 美雪やました みゆき脇田 綾乃わきた あやのだ。2人ともバスケ部のユニフォームを着ている。

 まともに会話をしたことは無いが普通の人だと思う。決して鬼頭と中条のようなバイオレンスなヤカラではない。

 私は何かを期待していたのだろう、ヨロヨロとコートに近づいた。

 2人は楽しそうにバスケをしていたが、私に気付くと動きを止め、こちらを睨みつけた。


「緋影……さん、何しに来たの?」

 予想外の反応に動揺する。

「えっ!?何という訳じゃないけど、ち、ちょっと休みたくて」

「ここは、私と綾乃が手に入れた理想の世界よ、いくらでも大好きなバスケが出来る」

「いや、邪魔するつもりは無い。ちょっと立ち寄っただけ、すぐ行くよ」

 私が立ち去ろうとすると、脇田 綾乃が立ちふさがった。

「美雪、確か黒板には《最後に残った者が夢の世界を制し、望みを叶える》って、書いてあったよね。コイツはここで始末しといた方がいいんじゃない」

「……そうね、練習しといて良かった」

 始末!?って、まさか――


 おもむろに山下 美雪が、持っているバスケットボールを地面に叩きつけ、ドリブルをやりだす。

「ちょっと待って、私はバスケは上手くなくって……」

 山下は、私の言動を無視して、私の後方にいる脇田 綾乃に視線を送る。

「行くよ綾乃、3!」

 脇田に鋭いパスを出すと、バスケットボールから、カチリと機械的な音が聴こえた。

 ボールを受けた脇田は、私の顔を睨みながら何度かドリブルすると、「2!」と言って、山下にボールを返す。すると、またボールからカチリと音がする。

 そのボールを受けた山下は、すぐさま「1!」と言うと、私に向かって思い切りボールを投げつけた。

 驚いた私は咄嗟に身体を反らし、ギリギリでボールを避けると、背後の地面に落ちたボールは、「ズガーンッ!」と大きな音を立てて爆発した。


「あ、危ナッ!爆弾!?」思わず声をあげ、尻餅をつく。

「チッ、外したか。でも、何度でもやり直せるのが、夢の良いところだわ」

 山下が右手の人差し指を上に向けると、新たなバスケットボールが現れ、指の上でクルクル回りだす。

 なっ!?コイツら殺る気だ――


 山下と脇田は私を囲み、低い姿勢でボールをドリブルする。

「ちょ、止めろよ、当ったら死ぬ奴じゃん」

「止めるわけ無いでしょ、殺すためにやってんだから」

 山下が冷静に言い放つ。

「でも、大丈夫よ夢なんだから。私達の夢の犠牲になってよ!」

 背後で脇田が声を上げる。


 コイツら、あの黒板の言葉に乗せられてるんだ。本当かどうかもわからないのに。

 でも、実際に、ボールを爆弾にするなんて、とんでもない能力を身につけている。


「3!」山下が、タイミングを計って、脇田にパスを送る。

「2!」脇田が、2、3歩歩いて、私の背後の山下にパスを送る。

「1!」再び私の顔面をめがけてボールが飛んでくる!

 私が身をかがめて避けると地面に落ちたボールは、またもや派手な音を立てて爆発した。


「また避けやがった!」

 山下がもう一度手にボールを出現させる。私に当てるまで何度でもやる気だ。

「コイツ体育のバスケでは、クソの役にも立たないザコだったくせに」

 脇田がイラつきながら喚く。


 このヤロウ、やっぱりそう思ってたのか、私は団体競技が苦手なだけで……って、そんな事はいい、そっちがやる気なら、こっちもやってやるよ!


「3だ!」山下が急いで脇田にパスを送る。

「2!」

 脇田が私の頭上を越すようにパスを返すが、焦ったのか高度が低い。私はすかさず跳躍してボールを奪う。


「1ィ!」

 着地と同時に素早く身体を反転させ、驚いて口を開けている山下にボールをぶち当てた!


「キャアァ!」

 叫んだ山下に当たったボールは、派手な爆発音をあげ、山下と共に光の粒になって消えていった。


「アァァ、美雪!なんて酷いことを!」

 脇田は予想外の出来事に半泣きになる。

「酷いことって?お前らがやろうとした事だが?」

「うるせぇ、クソが!友達もいないボッチのくせに!」

 脇田は怒りで顔を赤くして、こちらを睨みながらボールを出現させると、ドリブルを始める。


「3!2!――」

「付き合ってられない」

 私はスッと右手を突き出すと、伸びた剣が脇田の額を貫いた。


「な、何で……」そう言って脇田は光の粒になって消えた。足元に転がった、所有者を失ったボールもやがて消えた。


 カウントダウンで爆発するボールか、面倒なルールにしたもんだな。バスケを楽しむ気持ちが混ざったのかもしれない。でも、バスケが好きなのは本当だったんだろうな。まぁ、どっちでもいいけど。

「あー、疲れた!」

 私は虚しさと疲労感で、誰もいなくなったコートに座り込んだ。

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