第8話 招かれざる者

 その日の夜――

 寝たくないと思っても夜になれば、やはり眠くなるものだ。スマホを弄って耐えていたのだが、深夜1時を回ったぐらいで寝落ちしてしまった。


 気付くと、そこは昨日寝てしまった廃虚だった。

 ヤバイ!続きからスタートなのか!?もしかして、現実で起きてる間、ずっとここで寝てたの?ここは東翔宮の勢力圏だ、早く離れなくちゃ。

 そういえば、ホークは……いないか。どこかに行ってしまったのかな。

 私は不安に襲われながらも、しっかり周囲と空を確認しながら廃墟エリアを脱出した。

 いや〜焦った、ちゃんと寝る場所も考えないとね。とりあえず家に戻るか。


 トボトボと人気の無い家路を歩く。

 あー、夢の中でも見慣れた景色は落ち着くね、やっぱ家に籠もるのがいいかもしれないな。無用な争いには巻き込まれたくないからね。

 暫く歩いて家に辿り着く。

「あれ?えっ!」

 見ると2階部分の壁の一部が崩れ落ち、1階も窓が割れ、所々壁に穴が空いている。

 もしかして、バレてるのか、イグアナをやった事!私の事探しに来たのか?

 これじゃ、ここには居られないな、どこか落ち着ける場所を探さないと……。

 そう思って立ち去ろうとした時――


「ガサ、ガサッ!」

 家の中から物音が聞こえる――!

 あっ?まだ家の中にいる!?

 すると割れた窓から、黄色い体に黒い斑点の生物が顔を出した。

 ゲッ、キモッ!ヤモリ?しかしデカい!大型犬ぐらいあるぞ。

 私は目があって立ちすくんでしまう。

 意を決して、立ち去ろうと、そ〜と右足を上げた瞬間、ヤモリが窓から一直線に飛びかかってきた!

「うわぁっ!」

 転びながらも横に飛び退いて避けたあと、着地したヤモリがコッチを見た瞬間に右手を振り抜く!

「ザシュッ!」

 右手から飛び出した剣により、その気味の悪いヤモリは、真っ二つに斬り裂かれた。やがて無残に2つになった死骸は光の粒になって消えていった。


 ハァ、ハァ……よかった、剣は思い通りに出せるみたいだな。でも、また爬虫類かよ、西園寺なのかな?何匹飼ってんだアイツ。早くここを離れよう……しかし何処へ?

 あては無いけど、とにかく歩こう。廃墟には近寄りたくないので、今度は学校から離れる方向へ行ってみる。

 しばらく歩くと駅前の大通りに出た。バスが通る片側二車線の道幅の広い通りで、突き当りは駅前のロータリーになっている。

 普段なら人や車が多い場所なんだけど、やっぱり静かだ。電車も動いてなさそうだな。

 大通りを渡ろうと道の真ん中に差し掛かった時――


「見つけたぞぉー!」


 ドスの効いた叫び声と共に、不快なバイクの爆音が響く。

 振り向くと、50メートルほど先にバイクが1台、こちらに向かってくるのが見える。

 ヤバイ、ヤンキーの1人鬼頭 美紗きとう みさだ、この見通しのいい道路で張ってたというのか!?

 逃げようとして体制を崩した直後、すぐ後ろの横道から、もう1台、中条 絢美ちゅうじょう あやみが乗ったバイクが飛び出してくる。


「ハッハー、逃げられないぜー」

 あっという間に、鬼頭のバイクが到着し、2台で私の周りをグルグル回り始めた。手には鉄パイプを握っている。

 クッソ、さっきまでバイクの音なんてしなかったのに!能力で作り出した特殊なバイクなのか?

 

 2人は私を弄ぶように、不快なエンジン音を鳴らしながら周囲をグルグル回り、笑いながら話しだす。

「この世界は最高だなぁ、何やっても怒られないからよぉ」

「だな!アタシらが制覇してやるからよぉ、悪いけど犠牲になってくれや」

「ハハッ、これで昨日の相川に続いて2人目だぁ。本当は早くクイーンか四天王を殺っちまいたいんだが、コイツ誰だ?」

「変なマスクつけてるけど、確か引越してきた緋影って奴だぜ」


 バレてる!せっかくマスクしてるのに、全然、認識阻害されてないじゃん!


「あー、緋影って、いつも1人でスマホ弄ってるボッチかぁ、クソザコだが、しゃあねぇな、アタシらが葬ってやんよ」

 2人はバイクで走りながら鉄パイプをアスファルトに擦り付け威嚇する。ガリガリという金属音と共に火花が散る。

 ニヤニヤしながら、私の反応を見て楽しんでいるようだ。


 クソッ、舐めやがって!なに夢の中でまでオドオドしてんだ。こんな時代錯誤のダセー奴らに、やられてたまるか……!


「それじゃあ、クロスアタックいくぜ!」

「おっけ〜!」

 鬼頭と中条は、声を掛け合うと左右に別れ、私から距離を取ったかと思うと、2人同時に鉄パイプを振り上げ向かって来た。 

「オラァッ、死ねや!」


 コイツらすれ違いざまに鉄パイプで殴ろうってわけか?クソヤンキーめ、私の力を見せてやる!

 爆音で向かって来るバイクを見据え、右手を振る。「ズギャンッ!」という煌びやかな音と共に鋭い剣が出現する。

 

 ヤンキーどもは驚いた表情を見せるが、もう遅い。

 私は左右に大きく両手を広げ、バイクがすれ違う瞬間に、その場で一回転すると、2人同時にバイクもろとも切り裂いた!


 半分になった2人とバイクは、惰性でそれぞれ反対方向に飛んでいき、ガードレールにぶつかって爆発した。鬼頭と中条は、炎の中、声を上げる間もなく、光になって消えていった。


 や、やってやった、やられて当然のクズだ……やらなきゃ、やられてたし……。

 私は、達成感と罪悪感が混ざった、モヤモヤした気持ちのまま、その場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る