第7話 2つ目の黒板の言葉

 午後の授業、5、6時限目は美術だ。生徒達がつるんで1階の端にある美術室に向かう中、私は1人でトボトボと歩く。

 今日の課題は静物画のデッサンだ。絵を描くことは嫌いじゃない。だって、誰とも関わらなくていいからね。私はスケッチブックに黙々と課題の胸像を描く。


 近くで四天王の一人、南曇 妃毬なぐも ひまりが同じ胸像をデッサンしているのに気付く。

 普段はトロンとした目をして、何事にもやる気が無さそうなのだが、長い黒髪を気にすることも無く、随分集中して描いてるように見える。

 そういえば、南曇の親は芸術家だとか聞いたことがあるなぁ。


 ふと、南曇 の絵を覗き込む。

 うまっ!思わず声が出そうになった。同じ物を描いているのに迫力が違う。でも、よく見ると、何か禍々しさを感じる。少し大げさだけど、悪魔がモデルの胸像なのかと思ってしまう程だ。

 

「ちょっと、何見てるのよ」

 南曇が、私が絵をジッと見ているのに気付く。

 ヤバイ、長く見過ぎてしまった。

「あっ、え、イヤ、上手だなって思って……」

 動揺していると、南曇はチッと舌打ちして、髪をかき上げながら私の絵を覗く。

「この世は持つものと持たざるものに分かれるのよね」

 南曇はダルそうに鼻で笑いながらそう言うと、デッサンに戻った。

 あー、やっぱコイツ嫌いだわ。


 6時限目が終わり、不愉快な気持ちのまま、美術室を出て教室に戻る。

 すると、また何かザワザワしている。


「えっ!」思わず声が出てしまった。黒板には大きな文字でこう書いてある。


『最後に残った者が夢の世界を制覇し 望みを叶える』


 まただ、一体誰が?みんな美術室に行ってたはずだ。でも、5、6時限目の間の休み時間は、戻ろうと思えば戻れたかも。

 しかし、この言葉は、どういう意味だ?最後に残った者って……あの場所で殺し合いをしろとでもいうのか!?

 何か嫌な感じがして振り向くと、クイーンこと美樹丸 柘榴びじゅまる ざくろと四天王の4人が揃って、ジッと黒板の文字を見つめている。


 その時、1人の女子がズカズカと黒板の前に出て来る。

「ちょっと、これ誰が書いたんですか!?変なイタズラはやめてください!」

 学級委員長の上條 亜来かみじょう あきだ。眼鏡を掛けた黒髪おかっぱで、真面目を絵に描いたようなキャラだ。

 委員長の呼びかけに反応する人はおらず、やがてそれぞれの席に戻っていった。

 委員長は深いため息をつくと、黒板の文字を消してしまった。


朝書いてあった言葉


『夢の中ではひとつだけ どんな事でも想像した能力を手に入れる事ができる』


そして、さっき書いてあった言葉 


『最後に残った者が夢の世界を制覇し 望みを叶える』


 どう見ても『気付き』を与える為に書かれたものだよな。夢の中で、ただ怯えて過ごしていた人にも動機と手段を与えてしまった。

 嫌な予感がする。今夜もあの夢を見なければいけないのか。不安だなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る