第2章 開戦
第6話 黒板の言葉
ふと、目が覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。周囲を見渡すと現実のベッドの上だ。
6時50分……アラームの10分前に起きてしまった。普段なら、あと10分間、もう一度寝に入るのだが、そんな気分では無い。夢の中の事をはっきりと覚えている。
これから毎晩、あの夢の中で過ごすのか?ホークみたいに、コソコソ隠れて?正気でいられるんだろうか。
そんな事を考えていると、アラームが鳴った。とりあえず、学校に行く支度をするか……。
それにしても、あんな夢を見ておきながら、頭は結構スッキリしている。睡眠はちゃんと取れているようだ。
自転車を漕いで学校に到着する。当然、塔など建っていない。何の変哲もない、学校のままだ。
学校がどうにかなっちゃってないかと、ちょっと期待したけど、まぁ、変わらないか。あ〜あ、現実も憂鬱、夢も憂鬱。人生真っ暗だな。
私はどんよりした気分に陥りつつ、教室に向かった。
教室に近づくと何だか普段よりザワザワしているのに気付く。
違和感を感じながら、そっと後ろのドアから入ると、黒板に大きく何か書いてあるのが見える。
『夢の中ではひとつだけ どんな事でも想像した能力を手に入れる事ができる』
思わず声を出しそうになった。一体誰がこんなことを書いたんだ?
あたりを見回す。黒板を見て不思議そうに首を傾げている子。くだらないと言うように、バカにした目で見る子。反応は様々だ。
……ここにいる全員が、あの夢を見ているのだろうか?そうだ、昨日夢で見かけた奴は……。
見ると東翔宮は、何も気にしていない様な素振りで、スマホを弄っている。
ヤンキーの鬼頭と中条は……黒板を見ながら、ニヤニヤしている。こいつら、黒板の意味分かってるな。
少しすると担任の橋田が教室に入ってくる。黒板に書いてある文字を見ると、怪訝な顔をしてすぐに消してしまった。
うわっ、誰が書いたかとか聞かないのか。全く生徒に興味とか無いのかね?
モヤモヤした気持ちのまま授業を受けるが、ほとんど頭に入ってこない。
そして、ようやく午前の授業が終わり、昼食の時間。昼食はみんな、それぞれ仲の良い人達と机を寄せ合ってお弁当を食べる。
私はいつものように一人で食べるのだが、今はそんな事はいい。クラスメート一人ひとりの様子を伺う。
思った通り、お弁当はなんとか食べてるみたいだけど、明らかに元気の無い子が何人かいる。
昨日の体育で休んだ3人はもちろん。他に様子がおかしいのは……私はこっそりと、机に入れっぱなしにしていた、4月にもらったクラス名簿で氏名を確認する。
相川 由奈、近藤 遥、井上 陽子……か、この3人も新たに無気力状態になったみたいだ。まわりの友達は一生懸命話しかけているが、反応は薄い。
イグアナに喰われた齋藤のグループは3人組であとの2人は、坂下 瑞希と新たに元気の無くなった内の1人の相川 由奈だ。坂下が必死に2人に話しかけていたが、今はもう諦めて、下を向いて一人でお弁当を食べ始めた。無気力になった2人以上に箸が進んでいない。流石に可哀想に思えてきた。
よく見るとヤンキーコンビの鬼頭と中条が、その様子を見て笑いながら話している。人の不幸を笑うとか、本当クズだよな。まさか、相川をやったのはアイツらだったりするのだろうか?
教室の真ん中ではクイーンと四天王が陣取っていて、
そんな中、イグアナを飼っている西園寺の話声が聞こえる。
「……それで、オレのレッジーちゃん、やっぱ元気が戻らないからさぁ、ボルソンに喰わせちゃったんだ。あぁ、ボルソンっていうのは、うちで飼ってる蛇、ボールパイソンて種類の蛇なんだけど、一番のお気に入りなんだ。ボルソンは、立派に育ってさぁ、もう2.5メートルぐらいあるんだ。イグアナでも丸呑みなのよ!」
ゲッ!蛇にイグアナを喰わせたって!?自分のペットなのに、なんて残酷なんだ。食事中にする話題でもないしね。
そういえば1学期の頃、西園寺が校庭の隅にいて、通りすがりに見ると、嬉しそうにミミズを踏み潰して遊んでたんだ。何が楽しいのか、ちょっと私には理解できない。確か、家が開業医なんだっけ?こんなのが医者になったら嫌だなぁ。
しかし、やはり夢で私が斬ったイグアナはコイツのだったんだろうな。イグアナも夢で死んだら元気が無くなるんだね。
待てよ、と言うことは、もしかして、夢の中にそのデカい蛇もいるって事か?現実で既にデカいのに、夢の中だとどんだけデカくなるんだ?本当、危険がいっぱいじゃん!
「はぁ〜」大きくため息をつく。昼間から夜の心配をしなきゃいけないなんて。
それにしても、あの男……ホークは1クラス分ぐらいの範囲とか言ってたけど。クラスの全員があの夢の中にいるのなら、怯えて過ごしてる子もいるよね。誰かに話して確かめたいけど、話せる子がいない。私と気が合う子なんて、ここにはいないもんな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます