第10話 孤独
「――見てたぜ」
いきなり声をかけられ、ビクッとして立ち上がり戦闘態勢をとる。見るとホークが木の影から出てくる。
「な、何だよホークか、驚かせて」
私はホッとして、コートの横に設置されたベンチに座り直す。
「あぁ、すまなかった。しかし大変だったな」
ホークはそう言って同じベンチに腰掛ける。
「見てたなら、助けてくれてもいいのに」
「昨日も言ったように、俺には能力が無い。助けようがないさ。しかし、お前の腕から伸びる剣、凄いじゃないか。初めから使えば、すぐに終わったろうに」
ホークは不思議そうに尋ねる。
「いや、本当はやりたくなかった。人を殺すなんて」
「フッ、甘いな、やる気になってる奴に躊躇っちゃいけない、どうせ夢なんだから」
「いくら夢でもね、現実に影響あるし。それに気分の良いものじゃない」
「すぐに慣れるさ、ビデオゲームと同じだよ」
ゲームは良くやるけど、こんなリアルなゲームは無い。
「あと、お前もさっきの奴みたいに仲間と協力するといい。そうすれば襲われたって対処のしようがある。級友もこの夢の中にいるだろうから、普段仲の良い奴と組んだらどうだ」
「仲の良い奴なんていない」私はムッとして答える。
「エッ、一人もか?」
「一人もだよ!引越してきてから、この学校に気の合う奴なんていない。さっきの奴も私の事バカにしてたし、誰も話しかけて来ないし……どいつもこいつも田舎臭い、さえない奴ばかりだよ!」
ホークは少し間をおいて話し出す。
「どこに住んでいようと人である事には変わりない。いい奴もいれば、いやな奴もいるだろう。話しかけて来ないって、どうせお前も話しかけないんだろ?壁を作ってるのはお前の方なんじゃないか?」
私は言い当てられて黙ってしまう。
「意地張らなくてもいいさ、今からでも話ぐらい出来る友達を作ってみたらどうだ」
「う、うるせぇよ!私の勝手だ。別に困ってないし!」
それが出来たら苦労しない。今更だよ……。 言葉だけは強がってみせたが、胸が痛いので、ちょっと話題を変えたい。
「そういえばさ、最後に残った者が夢の世界を制覇して望みを叶える……ってどういう意味だと思う?なんか今日黒板に書いてあったんだけど」
「ん、黒板に?この夢の世界は中にいる人達の色んな想いで出来てるからな。
例えばこの目の前にある大きなバスケットコート、さっきやっつけた2人が望んだものだろう。そいつらがいなくなったから、明日には消えるはずだ。つまり他の誰もいなくなれば、自分の思った通りの世界になるのかもしれない。もしかして、それに気づいた奴が書いたのかもな。まぁ、何で書いたかまではわからないが」
えっ!?他の誰もいなくなれば、自分の理想の世界を作れるって事か。それは、ちょっと魅力的かもしれない。特に現実に不満がある私にとっては。
「だったら、私も目指してみようかな?この夢の世界の制覇……」
ホークはチラリとこちらを見た後、前を向き直って話す。
「好きにすればいい。それがこの世界の正しい在り方かもしれない。もっとも、俺みたいに能力の無い奴は、環境を変える力さえ無いから、何も意味は無いがね……」
とりあえず目標が出来たけど、空中を歩く東翔宮や、爬虫類使いの西園寺なんかもいるから難しそうだ。仲間でもいれば、可能性はあるのかな?でも、クラスには話せる人がいない……。
だったら、この人、ホークはどうだろう?仲間になってくれるだろうか?まだ2回しか会ってないけど色々教えてくれるし、悪い人ではないと思う。
「あ、あのさぁ、もしホークが良かったら私の……仲間……に、なってくれないかな?能力は無いと言っても経験も知識も豊富だし。もし、制覇したらホークの希望も取り入れようと思うし……なんて、どうやれば世界が変わるのかわからないけど……」
私が思い切って話すとホークは薄く笑って言う。
「お前、名前は?」
「あっ、そういえば名乗ってなかったね。舞……緋影舞です」
「舞、悪いが俺は誰の仲間にもならない。俺はもう、そんな気力は無い。今まで色々足掻いてきたし、色んな奴の死を見てきた。もう疲れてしまったんだ。影のように生きていければ、それでいい。ただ遠くから見守らせてくれ」
ホークは寂しそうに、丘の先に沈む夕日を見つめる。
「そ、そう、わかった。無理にとは言わないよ」
「うん……まぁ、また今度会った時、何かいい情報でもあれば教えるよ、舞には可能性がある」
「あ、ありがとう……」
ホークは今までここで、どんな生活を送ってきたのだろう?あまり詳しく聞ける雰囲気では無い……。
しかし、今日は疲れた。ヤモリから始まり、ヤンキーとバスケ部で計3回もバトルする羽目になってしまった。何だか眠くなってきたな。
「そうだ!こんな目立つ場所で寝るわけにはいかない!寝てる間にやられないように隠れないと」
私が慌てだすとホークが口を挟む。
「寝てる間の心配はしなくていいぞ。現実で目が覚めれば、夢の世界では姿が消える」
「えっ、そうなの?じゃあ、その間にやられる事は無いのね……ふぁ〜、だったら今日はここでいいか」
私はホッとしてベンチに横になる。
「頑張れよ……」
ホークが何か声をかけてくれたが、そのまま目をつむる。遠くで電子音が聞こえる。
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