第2話 イグアナ
その時、ガラガラと教室のドアを開け、担任が入って来た。
「えー、おはようございます。皆さん良い夏休みを過ごせたでしょうか……」
ボソボソと話すこの男が、私たちのクラスの担任だ。名前は確か、
クソむさ苦しい女子校で折角の男の先生なのに、こんな冴えない中年なんてね。しかも、この美樹丸女学園は担任が全教科の授業を受け持つという、珍しいスタイルだ。つまり、1日中この冴えない男の顔を見て過ごさなきゃいけないってわけ。これが、せめてイケメンだったら、少しは学園生活が楽しくなるかもしれないのに。
橋田は始業式のスケジュール等を話しているが、ほとんどの生徒は私語をやめず、教室全体がざわついている。しかし、橋田は注意などはしない。淡々と決められた事を話しているだけのようだ。
これがまた、冴えないところ。静かにしろぐらい言えないのかね。こんなだから普段の授業中さえ、結構喋ってる人がいる。ちゃんと授業を受けたい人にとっては迷惑だよね。まぁ、そんな人いるかわからないけど。
2学期の初日は始業式のみで、無事に時間が流れていった。今日は1日誰とも話さなかったが、別に気にしない。無理する必要なんてないし。
夢で見た女が齋藤 心奈に似てたが、まぁ、それもどうでもいいことだ。帰ったらゲームの続きでもしよう。
担任の橋田がボソボソと話す帰りのホームルームを、早く終われと思いながら聞いていると、四天王の一人、
「オレんちさぁ、夏休み中にまた、一匹お友達増えたんだぁ、レッドイグアナのレッジーちゃん!これが元気で可愛いんだ!」
何がお友達だ、またペットの話か。確か、コイツは爬虫類好きで、ヘビやら何やら飼っていると聞いたことがある。いつもデカい声で自慢気に話しているから、コイツの趣味に詳しくなってしまった。
で、今度はイグアナかよ。人に迷惑かけなきゃ、どんな趣味でも否定しないけど、私は興味無いわ。
イグアナねぇ……レッドイグアナ?そういえば夢で見たイグアナも赤っぽかったか?だから、どうしたという事でもないけど……。
そんなことを考えている内に、帰りのホームルームが終わったようだ。私は一目散に教室を出る。少しでも早くこの居心地の悪い
あー、学校始まってしまったなぁ、二学期って長いんだよなぁ。
私は家に帰ると、昼食の後、着替えもせず、ゲームの続きに没頭した。今やってるのは、ジャンルでいうと、アクションRPGという奴だ。プレイキャラが、剣を使ってバサバサとモンスターを切り倒していく。ゲームに集中してると、現実を忘れられるからいい。なんだかんだで、夕食の時間までやり込んでしまった。
新学期はどうだった?という、母親の問いかけに適当に返事をして、夕食を切り上げると、また部屋に籠もる。制服のまま、ベッドに横になりスマホを弄っていると、眠気が押し寄せる。
久しぶりに学校行って疲れたなぁ。私はベッドの柔らかさに身を委ねる。
「ガリガリッ!ガリガリッ!」
どれくらい眠っていたのだろう、大きな音にハッとして目を覚ます。
何だ何だ?この音は!
「ガリガリッ!バキッ!」
下だ!玄関のドア?
急いで窓から下を覗くと、この前夢で見た巨大イグアナがドアを壊し、家の中に入っていくのが見えた。
おい!冗談じゃないぞ!えっ?夢、夢だよな?
階下では物が壊れる音が聞こえ、やがて巨大な体を引きずってズリズリと階段を登ってくる音が聞こえてくる。
「おーい!お母さん!お母さんいるの!?お父さんは帰ってきた?ちょっと誰かー!」
私は混乱して大声を出すが、家族の反応は無い。その代わり大きな足音が近づいてくる。
「待てー!夢だろ!?覚めろ!覚めろ!」
私は自分の頭を両手でバシバシ叩いてみるが、目は覚めずに、頭にジーンと痛みだけが残った。
これは、現実!?
「バリ!ガリッバリッ!」
部屋のドアを壊す強烈な破壊音とともに、巨大な赤いイグアナが顔を覗かせた。
昨日見た齋藤 心奈が喰われるシーンがフラッシュバックする。
「ウワァッー!クッソーこの野郎!食われてたまるかァァ!!」
必死になって大声で叫ぶ。握りしめた右手に力が入る。すると――
「ズギャンッ!」
綺羅びやかな音と共に、右手の拳から光り輝く鋭い剣が飛び出した。
「フワァッ!?」
思わず間抜けな声を上げる。しかし、驚いてる暇もなく、イグアナが大きな口を開けて飛びかかって来た。
「アァァァ――ッ!!」
破れかぶれで剣の付いた右手を左から右に振り抜くと、イグアナは上下に真っ二つに切り裂かれた。
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