第3話 不穏

 ハァハァと肩で息をする。心臓の鼓動が耳の近くで聞こえる。

 眼の前には口から背中の半分ぐらいまで、綺麗に切り裂かれたイグアナの死骸が転がっている。

 どうやら右手を振り抜いた瞬間に剣が1.5メートルぐらいまで伸びたようだ。

 

 何も理解出来ないまま呆然と立ち尽くしていると、眼の前のイグアナの死骸が徐々に光の粒になり、やがて全て消えてしまった。

 齋藤 心奈と同じ?いや、もう何がなんだか、思考が追い付かない。

 放心状態のまま、周囲を見渡すと、部屋はボロボロで、一緒に切ってしまったであろう本棚が真っ二つになって転がっている。その上、壁には切れ目まで入っている。

 これ、外まで貫通してるな。

 ため息を付いて体の力を抜くと、スッと右手から剣が消えた。


「はぁ〜、疲れた……」

私はベッドに横になると、そのまま眠ってしまった……。

 

「……ぃ…まい……舞!いつまで寝てんの、学校遅れるよ」

 ドアの向こうの母親の呼ぶ声で目が冷めた。

 周りを見渡すと、ドアに損傷は無く、本棚には綺麗に本が並べてある。もちろん壁も無事だ。

 夢だったか……。ハハ、そりゃそうだ。


 昨日はお風呂に入らずに寝てしまったので、急いでシャワーを浴びる。

 はぁ、強烈な夢だったので続きを見てしまったのかな。あんまり寝た気がしないや。しかし、でっかいイグアナを倒せたから、まだ気分がいいな。それにしても、手から剣が出てくるなんてね、昼間やってたゲームの影響だなこれは。


 私は軽く朝食を済ませ、学校に向かう。

 今日からまともに授業があるんだよな、あー、ダルい。

 現実を思い出し、一気に憂鬱になる。


 教室に着き、いつもの様にスマホを弄っていると、西園寺 妖さいおんじ ようの声が聞こえてくる。

 

「何か今朝はレッジーちゃん元気ないんだよね。昨日まで凄い動き回ってたのに、ほとんど動かないし餌も食べなくてさ……」


 レッジーちゃんて、あいつの飼ってるレッドイグアナとかいうのだっけ……夢で赤っぽいイグアナ斬ってやったからな。それが影響してたりして、ハハ……。

 私の想像力も、なかなか豊かだな、なんせ夢では、右手から剣が飛び出すぐらいだしね。


 今日の3時間目は体育だ。新学校始まって早々体育なんてね。朝からダルくて、体を動かす気分じゃないから、体調が悪いと言って休ませてもらおう。


 今日の体育の授業はバスケットボールらしい。また、バスケか。バスケ部が張り切っちゃってウザいんだよね。上手いのは当然なんだからさ。私は運動神経は悪い方じゃないと思うけど、集団で行う球技とかは苦手なので、余計に苦痛なんだ。この学校の人達とは特に合わないしね。

 私は体育館の端でパスの練習等しているのを見学する。横を見ると私と同様に体育を休んで見学してる子が3人いる。

 一人は例の齋藤 心奈。昨日もそうだったけど、何かボーとして生気が感じられない。口も半開きだ。昨日からずっとこうなのだろうか?

 後の2人、確か、鈴木 理沙と山本 恵って名前だったかな?何だかこの2人も変な感じだ。虚ろな表情で、黙って練習風景を見ている。いや見てないか、前を向いているが、どこを見てるかわからない。


 どうしたんだ?3人とも似た感じだな。同じ風邪でも流行ってるのか?

 私はうつりたくないので、3人と距離を取って過ごした。


 帰りのホームルームが終わり、再び速攻で教室を出る。もちろん誰とも挨拶をしない。

 家では夕食の後、ゆっくりとお湯に浸かった。昨日はベッドに寝転がった時、意図せず寝てしまったから、変な夢を見たんだな。今日はちゃんとパジャマに着替えたし、いい夢見れそうだ。

 でも、学校始まっちゃったなぁ、たしか秋には修学旅行とかあるんだよな、仮病でも使おうかな。まぁ、今から先の事考えてもダルいだけだし、まずは、次の土日を目標に生きよう。私にとって学校は苦痛なだけだ。

 就寝前に少し嫌な気持ちになってしまったが、布団に潜り込むとすぐに眠りについた。

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