夢の中の蟲毒な学園
キャシヨ
第1章 夢
第1話 夢
「キャアァァァァ―――!!」
突然、家の外から聞こえる女の叫び声。私はゆっくりとベッドから降りると、2階の自室のカーテンの隙間から、そっと窓の外を見下ろした。
「エッ!?」
そこで目にしたおぞましい光景に、私は思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「アアァァ―― 誰かァ――!!」
女の声が響く。私は恐る恐る、もう一度窓から下を覗く。
とても信じられないのだが、3メートルはあろうかという巨大なイグアナの様な生物が、若い女を咥えているのだ。
しかも、既に下半身はイグアナの口の中だ。女は両腕で必死にイグアナの口を押さえて抵抗し、息も絶え絶えに叫び続けるが、徐々に口の中に飲み込まれてゆく。
私は恐怖に震えながらも、目が離せないでいたが、ふと、咥えられている女の顔に既視感を覚える。
――あれ?あの子見た事ある様な……。
女はもう抵抗する力が無くなったのか、両腕をダラリと下げた。その時、咥えられた女の身体がパッと発光したかと思うと、光の粒になって消えてしまったのだ。
「なっ!?」
私は思わず身を乗り出して窓ガラスに頭をぶつけた。
「ガンッ!」と音がすると、巨大イグアナの眼球がグルリとこちらを向き、目が合ってしまった。
――ヤバイ……!
瞬間、私はガバッと布団を剥いで跳ね起きた。
「ゆ、夢か……」
私は恐る恐る窓から下を覗き、何もいないことに安堵する。
いや、いるわけないって、あ〜変な夢見た。妙に現実感があったなぁ。
ふと、時計を見ると、もう直ぐ起きなければいけない時間だ。
「あ〜、今日から2学期だった。夏休み短かったなぁ、行きたくねー」
思わず口に出してしまう程、学校は楽しくない。
私の名前は「
親の仕事の都合により、中学卒業に合わせて、この郊外の街に越してきた。
田舎という程ではないが、決して都会ではない。駅の周りはそれなりにデパートや店舗があるが、少し行くと畑や森なんかが点在している。
家から自転車で10分ぐらいの場所に女子校があり、地元では名門で通っているらしく、通学に時間をかけたくないこともあって、安易に選んでしまったのだが、クラスの雰囲気に全く馴染めない。
この女子校に通っているのは、みんな地元の人達だ。私が前に住んでいたのは23区外の都内だから全然都会な訳じゃないけど、それに比べても、この学校の生徒はどうも垢抜けないし、他所から越して来た私に対して壁を感じる。おかげでクラスには、友達はおろか、話ができる相手さえいない。
私は憂鬱な気分に浸りながら支度をし、パンを1枚食べてから、自転車で学校へ向かう。
近過ぎるのも良くないなって今になって思う。私はあっという間に校門をくぐる。門にはデカデカと「
ガラガラと教室のドアを開け、無言のまま一直線に窓際の自分の席に着くと、すぐさまスマホをいじる。周囲では「久しぶり」とか、「夏休みどこへ行った」などの会話が交わされ、ガヤガヤとしているが、私に話しかける人はいない。
そう、話す相手がいないのでスマホをいじって時間を潰すのだ。おかげでくだらないネットニュースなんかに詳しくなった。
正直、寂しくないとは言わないが、無理に気の合わない人に合わせるより、一人でいた方が気が楽だ。
「夏休みはイタリアに行って来たわ、やっぱりローマの街並みは美しいわね」
「はぁー、さすがクイーン!さぞ絵になったでしょうね」
「よろしければ、私達に写真など見せていただけませんか?」
わざわざ、でかい声で話してるのが、このクラスのヒエラルキートップに君臨する
美樹丸という名字でわかる様に、この町の大地主の末裔の娘だ。大層金持ちらしい。
その目鼻立ちの整った顔は、常に優越感に浸り、自信満々な事を際立たせる。周りの全ての人達を見下しているようだ。
クラスでは、クイーンと呼ばれて、本人も気に入ってるみたい。
それは、逆に恥ずかしくないのかね?
周りで持て囃してる4人も、それぞれ親が社長だとか市議会議員だとかで金持ちらしい。名前は
他の人達は目をつけられない様に、気を使って生活している。クラスにはヤンキーみたいな奴もいるんだけど、決してこの5人には楯突かない。
これからも、このクラスで過ごさなきゃいけないんだなぁと、憂鬱な気分に浸っていると、何やら、後ろの方で揉めているような声が聞こえる。
「ちょっと、どうしたの
「もしかして彼氏と別れたの?」
1人の生徒に向かって、その友達と思われる生徒が2人、必死に話しかけている。しかし、話しかけられている生徒は、ぼんやりと視点が合わず、なにやら呟いているが、全く生気が感じられない。
あー思い出した。
私は、冷めた目で齋藤心奈の青白い顔を見ながら、何かが引っかかるのを感じた。
――あれ?あの顔最近どこかで見たな……そうだ、今朝の夢だ!夢でイグアナに喰われた女だ!
私はハッとして思わず勢い良く立ち上がる。
「ガシャンッ」と音を立てて座っていた椅子が倒れると、周りの生徒に怪訝な顔をされてしまった。私は気まずくて、もう一度静かに座る。
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