第3話 王太子を殺したロレンツィオを突き出す
「ロレンツィオ殿。そちらに行ってはいけない。あなたを待ち構えている一隊がいるのです。彼らはあなたを捕らえようと・・・いやその場で殺そうとしているのです。いかにあなたでも、彼らを突破するのは困難です。」
ハイエルフの正騎士マリエッタは、今まで、今の今まで、自分が導いてきたロレンツィオに向って、思いあまって告げてしまった。
震えて大粒の涙まで流し始めた。自分も、女王も、凌辱され、国が滅亡する危機を救ってくれた、あの王太子を殺してくれた、自分にとっても国にとっても恩人であるロレンツィオを売ろうとしている。流石に、あの王太子に困っていたとはいえ、王太子は王太子、それを殺害した者を許しておくわけにはいかない。ロレンツィオが、それ以前にも大きな貢献をしてくれていたとしても。そのような、ある意味大人の事情から、ロレンツィオの引き渡し要求が来た。西ハイエルフの国の安泰のため、民のため、それに屈した、同意した。自分も、それを是とした。そして、このままかくまってはいられないので、秘密裡に、安全な道で脱出させるとして、かなりの金を渡し、護衛と称して、ピサ王国軍が待ち構える場所に連れてきたのである、その間近まで。
「ご配慮、ありがとうございます。マリエッタ殿。でも、実は分かっていたのです。私は、このまま行きます。あ、死ぬつもりはありませんからね。心配しないで下さい。これでお別れですが、そこの次席正騎士長殿と仲良く、幸せになってください、マリエッタ聖騎士長殿。」
とロレンツィオは背を向けたまま、振り返る事もなく彼を待ち受ける一隊が潜んでいる方向に歩いていったしまった。
婚約者に抱かれながら、マリエッタは涙を流すしかなかった。
その後、ロレンツィオがその危機を切り抜け、その後も追跡隊を蹴散らして逃げ延び、その行方が分からなくなったとの噂を聞いてホッとするとともに、心の痛みを感じるのだった。それでも彼女の心を理解し、優しく慰める夫とともに、さらにその夫との子を腹に宿して、幸せな日々を彼女は過ごすことになった。
幸せな日々。恋人と結ばれ、幸せな家庭をつくり、日々を過ごすことは女勇者サルビアも、聖女トレナも過ごすことになったのである。彼女達は、凌辱され惨殺された記憶を持つ事も無く、それを後世に伝えることもなく人生を幸せのうちにおくることになったのである。屑の悪辣非道な、好色な憎むべきロレンツィオは、彼女らの記憶から生まれることはなくなり、その言霊も消えたのである。
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